・・・役人はまた処刑の手間どるのに、すっかり退屈し切っていたから、話をする勇気も出なかったのである。 すると突然一同の耳は、はっきりと意外な言葉を捉えた。「わたしはおん教を捨てる事に致しました。」 声の主はおぎんである。見物は一度に騒・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・この間町じゅうで大評判をした、あの禽獣のような悪行を働いた罪人が、きょう法律の宣告に依って、社会の安寧のために処刑になるのを、見分しに行く市の名誉職十二人の随一たる己様だぞ。こう思うと、またある特殊の物、ある暗黒なる大威力が我身の内に宿って・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・と、法廷で揚言した二十六歳の処女シャロット・コルデーは、処刑にのぞんで書をその父によせ、明白にこの意をさけんでいる。いわく「死刑台は恥辱にあらず。恥辱なるは罪悪のみ」と。 死刑が極悪・重罪の人を目的としたのは、もとよりである。したがって・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・と法廷に揚言せる二十六歳の処女シャロット・ゴルデーは、処刑に臨みて書を其父に寄せ、明日(に此意を叫んで居る、曰く「死刑台は恥辱にあらず、、恥辱なるは罪悪のみ」と。 死刑が極悪・重罪の人を目的としたのは固よりである、従って古来多くの恥ずべ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・それで、一度あちらへかえって、すべてのことを片づけておき、すぐにまた出て来て処刑を受けますから、どうぞしばらくの間お許しを得たいと言いました。 ディオニシアスはそれを聞いて嘲笑いました。そんなにして、まんまと遠い海の向うへ遁げた後に、ま・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・ 明日はおれは処刑を受ける。おれはヨオロッパのために死ぬる。ヨオロッパの平和のために死ぬる。国家の行政のために死ぬる。文化のために死ぬる。 襟は遺言をもって検事に贈る。どうとも勝手にするがいい。 故郷を離れて死ぬるのはせつない。・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 早い話がむやみに人殺しをすれば後には自分も大概は間違いなく処刑されるということはずいぶん昔からよくだれにも知られているにかかわらず、いつになっても、自分では死にたくない人で人殺しをするものの種が尽きない。若い時分に大酒をのんで無茶な不・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・東條が処刑された翌日の新聞に、家族が父は死んだのではありません、生きたのです、最後まで信念を貫いたのですから、と語った。そのすぐあとのけさ大川周明ほか十九名が自由になったと知らされている。そのなかの一人である安倍源基は特高課長、警視総監、内・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
○一昨年十二月二十五日 新日本文学主催の文学者のファシズム反対講演会東條 処刑A級戦犯 釈放「安部源基」 1931年 満州侵略がはじまったころ、大泉、小畑をつかっていた男。児玉よしを 台湾への□(二、・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
出典:青空文庫