・・・円で買ってあるのだから来年中に償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以上作ってはならぬ事、博奕をしてはならぬ事、隣保相助けねばならぬ事、豊作にも小作料は割増しをせぬ代りどんな凶作でも割引は禁ずる事、場主に直訴がまし・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・奥州筋近来の凶作にこの寺も大破に及び、住持となりても食物乏しければ僧も不住、明寺となり、本尊だに何方へ取納めしにや寺には見えず、庭は草深く、誠に狐梟のすみかというも余あり。この寺中に又一ツの小堂あり。俗に甲冑堂という。堂の書附には故将堂とあ・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・私は明日からしばらく西津軽、北津軽両郡の凶作地を歩きます。今年の青森県農村のさまは全く悲惨そのもの。とても、まともには見られない生活が行列をなし、群落をなして存在している。貴兄のお兄上は、県会の花。昨今ますます青森県の重要人物らしい貫禄を具・・・ 太宰治 「虚構の春」
新玉の春は来ても忘れられないのは去年の東北地方凶作の悲惨事である。これに対しては出来るだけの応急救済法を講じなければならないことは勿論であるが、同時にまた将来いつかは必ず何度となく再起するにきまっているこの凶変に備えるよう・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・それが一足ずつだんだんほんとうになって、こぶしの花が咲かなかったり、五月に十日もみぞれが降ったりしますと、みんなはもうこの前の凶作を思い出して、生きたそらもありませんでした。クーボー大博士も、たびたび気象や農業の技師たちと相談したり、意見を・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 来年も凶作があるかないかを予測するため、海へ船を出して天候を観測したりしている記事が大きい見出しに写真つきで華やかに新聞に出たが、あの報告で今年の秋を、みのりの秋と楽しく期待出来た人間は恐らく一人もなかったであろうと思う。東北地方の飢・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
出典:青空文庫