・・・端を婦人の一手に引受くるが如き不幸もあらんには、其時に至り亡人の存命中、戸外に何事を経営して何人に如何なる関係あるや、金銭上の貸借は如何、その約束は如何など、詳細の事実を知らずして、仮令い帳簿を見ても分明ならず、之が為めに様々の行違いを生じ・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 政事の性質は活溌にして教育の性質は緩慢なりとの事実は、前論をもってすでに分明ならん。然らばすなわち、この活溌なるものと緩慢なるものと相混一せんとするときは、おのずからその弊害を見るべきもまた、まぬかるべからざるの数なり。たとえば薬・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・古今の道徳論者が世人の薄徳を歎き、未だ誠に至らずなど言うは、その言不分明にして徳の公私を分かたずといえども、意のある所を窺えば、公徳の働きに情を含むこと未だ足らずして、私徳の円満なるが如くならずというの意味を見るべし。されば今、公徳の美を求・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・エプロン姿で出迎えてひたすら彼の力弱い月給袋を生涯風波なしの唯一のたよりとし、男として愛するから良人としての関係にいるのか月給袋をもって来るから旦那様として大事に扱われるのか、そのところが生活の心持で分明をかいているというような女らしさには・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 男性たちにしても、女が生きて来たと同じその歴史のうちで生長して来ているのだから、同じような感情のあいまいさや節度の不分明なところを弱点として持っているのは当然である。紛糾は女性が自分の感情の本質をはっきり知っていないことからひき起るば・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・民衆一般が手近に分りやすく知り得ない諸事情の錯綜の結果、或は率直に闡明され得るなら分明となるはずのところをそれが出来ない事情があるため、一層ものごとが複雑になっているというような、二重の複雑が平凡な民衆の生活の思いよらぬ心持の隅にまで影響し・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ゴーリキイの生涯を通観してもそのことは分明なのである。 深田氏の「強者連盟」を読んでも印象されたことであるが、一般的にこんにち積極的意企をもった文学作品の中には、情熱を欲する感情というものが、つよく緊張していることを感じられる。しかし、・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・しかし会話のやりとりの間ではイデオロギー的批評の性質は分明にされなかった。これは、果してどういうものであろうか。 たとえば橋本正一氏がいっているように、自身の創作の実際にあたって、作家は、他の作家によってかかれたある作品の構成「漸次に発・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・明治の聖代になってから以還、分明に前人の迹を踏まない文章が出でたということは、後世に至っても争うものはあるまい。露伴の如きが、その作者の一人であるということも、また後人が認めるであろう。予はこれを明言すると同時に、予が恰もこの時に逢うて、此・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私自身の感覚観がより独断的なものであったかのいずれかにちがいなかったからである。だが、今の所、「分らない・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫