・・・ 曹長は、刑法学者では誰れが権威があるとか、そういう文官試験に関係した話を途中でよして、便所へ行くものゝのように扉の外へ出た。 彼は、老人の息がかゝらないように、出来るだけ腰掛の端の方へ坐り直した。彼は、癇高い語をつゞけている通訳と・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・普通民法刑法の苟も許さざる所也。 而も赳々たる幾万の豼貅、一個の進んでドレフューの為めに、其寃を鳴し以って再審を促す者あらざりき。皆曰く。寧ろ一人の無辜を殺すも陸軍の醜辱を掩蔽するに如かずと。而してエミール・ゾーラは蹶然として起てり。彼・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・、一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その無能力者を、刑法では、そう認めず、処罰にあたっては、忽ち同一の主婦が能力者として扱われるという矛盾は、残酷という以上ではないだろうか。日本の民法はしっかりと改正されなければならない。 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・夫と妻の財産に対する権利の平等、刑法上で婦人にばかり姦通罪がきびしかった点も改正され、離婚に対する権利の平等、母親の子供に対する親権も父親と等しいものに認められるようになってきている。これは日本でつくられた憲法、民法、刑法上での大革命である・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ところが、刑法において、婦人はどう扱われているであろうか。刑法上、その行為の責任を負うに耐えないものとなっている事は、精神異常者その他人並の分別を一時的にしろ喪った者となっている。女子が、神経の弱い、社会的因襲による無智から常規を逸しやすい・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・この頃いろいろなことで、女子が出ても、選挙の問題や婦人の問題ばかりでなく、刑法・民法のように、まだまだ差別のあることを御承知でしょうし、婦人は公民権をもっておりませんし、代議士になって、いろいろよい施策をやるとしても、いろいろな役割をするに・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・民法とか刑法とか商業に関する法律とかいろいろの法律がたくさん出ました。そして法律によって治められる国ということになりました。ところが明治時代から今日までにできた日本の憲法、民法、刑法その他のものを見ました時に、先程もいろいろの方がお話になっ・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のようなものを再び日本につくろうとする動きがある。刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、刑法のその条項を適宜に運用すべきである。もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・エロ・グロ出版の排除という、誰も非難しようのないいとぐちによって、時事新報が誤って報道したように、万一その委員会が、刑法改正請願というような逸脱行為に導かれれば、それはとりもなおさず外見は民間の声というファシズムの手のひらで、民主的発言の口・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
出典:青空文庫