・・・御承知でもあろうが、筮と云う物は、一爻に三変の次第があり、一卦に十八変の法があるから、容易に吉凶を判じ難い。そこはこの擲銭卜の長所でな、……」 そう云う内に香炉からは、道人の燻べた香の煙が、明い座敷の中に上り始めた。 ・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・年ごろは三十二三でもあろうか、日に焼けて黒いのと、垢に埋もれて汚ないのとで年もしかとは判じかねるほどであった。ただ汚ないばかりでなく、見るからして彼ははなはだやつれていた、思うに昼は街の塵に吹き立てられ、夜は木賃宿の隅に垢じみた夜具を被るの・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 年は二十を越ゆるようやく三つ四つ、背高く肉やせたり、顔だち凜々しく人柄も順良に見ゆれどいつも物案じ顔に道ゆくを、出であうこの地の人々は病める人ぞと判じいたり。さればまた別荘に独り住むもその故ぞと深くは怪しまざりき。終日家にのみ閉じこも・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・ 薄筵の一端を寄せ束ねたのを笠にも簑にも代えて、頭上から三角なりに被って来たが、今しも天を仰いで三四歩ゆるりと歩いた後に、いよいよ雪は断れるナと判じたのだろう、「エーッ」と、それを道の左の広みの方へかなぐり捨てざまに抛って了った・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・と答えたのは男らしい。三人は無言のまま顔を見合せて微かに笑う。「あれは画じゃない、活きている」「あれを平面につづめればやはり画だ」「しかしあの声は?」「女は藤紫」「男は?」「そうさ」と判じかねて髯が女の方を向く。女は「緋」と賤しむごとく答え・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・以上を総括して今後の日本人にはどう云う資格が最も望ましいかと判じてみると、実現のできる程度の理想を懐いて、ここに未来の隣人同胞との調和を求め、また従来の弱点を寛容する同情心を持して現在の個人に対する接触面の融合剤とするような心掛――これが大・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・見物人はわれわれ位の紳士だけれども、何だか妙な、絵かきだか何だか妙な判じもののような者や、ポンチ画の広告見たような者や、長いマントを着て尖ったような帽子を被った和蘭の植民地にいるような者や、一種特別な人間ばかりが行っている。絵もそういう風な・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫