・・・ところが妙なことには、どうかして金曜日に雨のふるまわりが来ると、来る週も来る週も金曜日というと雨が降る。前日まではいい天気だと思うていると、金曜の朝はもう降っているか、さもなくば行きには晴れであったのが帰りが雨になる。こういうことをしばしば・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・四五年前日露戦争と云うものがありました。露西亜と日本とどっちが勝つかというずいぶんな大戦争でありました。日本の国是はつまり開戦説で、とうとうあの露西亜と戦をして勝ちましたが、あの戦を開いたのはけっして無謀にやったのではありますまい。必ず相当・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ 然ばすなわち我が輩の所業、その形は世情と相反するに似たりといえども、その実はともに天道の法則にしたがいて天賦の才力を用ゆるの外ならざれば、此彼の間、毫も相戻ることなし。前日の事、すでにすでにかくの如し、後日の事、またまさにかくの如くな・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・昨夜も大勢来て居った友人(碧梧桐、鼠骨、左千夫、秀真、節は帰ってしもうて余らの眠りに就たのは一時頃であったが、今朝起きて見ると、足の動かぬ事は前日と同しであるが、昨夜に限って殆ど間断なく熟睡を得たためであるか、精神は非常に安穏であった。顔は・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・厭な一昼夜を過ごしてようよう翌朝になったが矢張前日の煩悶は少しも減じないので、考えれば考える程不愉快を増す許りであった。然るにどういうはずみであったか、此主観的の感じがフイと客観的の感じに変ってしまった。自分はもう既に死んでいるので小さき早・・・ 正岡子規 「死後」
・・・十一月三日の開票日の前日、日本の代表的な新聞はデューイ氏当選確実、共和党早くも祝賀会準備と、まるで丸の内あたりでその前景気をみてでもきたように書きたてた。 ところが、開票の結果は予想がうらぎられた。民主党のトルーマン大統領が再選した。ト・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・その前にはスエ子の誕生祝に三越へ行って硝子製の奇麗な丸いボンボンいれを買ってやりました。やすいもの、だがいい趣味のもの。この頃の硝子製造が発達して芸術的なものの出来ているには驚きます。その前日には、疲れているのに無理であったが北極探険隊の遭・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 阿部一族は討手の向う日をその前日に聞き知って、まず邸内を隈なく掃除し、見苦しい物はことごとく焼きすてた。それから老若打ち寄って酒宴をした。それから老人や女は自殺し、幼いものはてんでに刺し殺した。それから庭に大きい穴を掘って死骸を埋めた・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 閭は前日に下役のものに言っておいて、今朝は早く起きて、天台県の国清寺をさして出かけることにした。これは長安にいたときから、台州に着いたら早速往こうときめていたのである。 何の用事があって国清寺へ往くかというと、それには因縁がある。・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・その臨時汽車はすぐ前日から運転し始めたのだった。「こいつは運がいい。」と私は思った。しかし時間を勘定してみてやはり一時間ばかり待たなければならない事がわかると、私の心はまた元へ戻り始めた。「何だ、こんな事で埋め合わせをするのか、畜生め。」私・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫