・・・翌三十五年助教授となり、四十二年応用力学研究のため満二年間独国及び英国へ留学を命ぜられ、これと同時に工学博士の学位を授けられた。四十四年帰朝後工科大学教授に任ぜられ、爾来最後の日まで力学、応用力学、船舶工学等の講座を受持っていた。大正七年三・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ヨーヨーも物理的玩具であるが、あれはだいたいは簡単な剛体力学の原理ですべてが解釈される。しかしこの獅子のほうは複雑な渦流が複雑な面に及ぼす力の問題を包んでいる。飛行機と突風との関係に似ていっそう複雑な場合であるから、世界じゅうの航空力学の大・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほんとうに破壊が起こり始めたが最後、もう始めの微分方程式も境界条件も全部無効になるから、これらの理論はその後の事がらについては・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・しかしこの試みが成効して今日の物理的自然科学となれり。力学における力、質量等のごとき、熱力学における温度エントロピーのごときこれなり。これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ とうとう柄の長いほうが自分の今の運動の目的には適しているというある力学的な理由を見つけた、と思ったのでそのほうを取る事にした。 鋏を柄に固定する目くぎをまださしてないから少し待ってくれというので、それができるまでそこらを散歩する事・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・液体力学の教えるところではこういう崖の角は風力が無限大になって圧力のうんと下がろうとする所である。液体力学を持ち出すまでもなく、こういう所へ家を建てるのは考えものである。しかしあるいは家のほうが先に建っていたので切り通しのほうがあとにできた・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・この時に全部の手術を受け持ってくれたF学士に抜歯術に関する力学的解説を求められたので、大判洋紙五六枚に自分の想像説を書きつけてさし出したのであった。それはいいかげんなものであったろうが、しかしこうした方面にも力学の応用の分野があることを知っ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そういう夢のような幼時の記憶があるが、このように腰をかけながらついている杖などは杖としての珍しい用途であろう。力学的に考えるとやはりからだの安定を保つために必要な支柱の役をしていたに相違ない。 しかしこういうあらゆる杖に比べると、いわゆ・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・ 三 運慶が木材の中にある仁王を掘り出したと云われるならば、ブローリーやシュレディンガーは世界中の物理学者の頭の中から波動力学を掘り出したということも出来るであろう。「言葉」は始めから在る。それを掘り出すだけ・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・それほど相撲に縁のない自分が、三十年ほど前に夏目漱石先生の紹介で東京朝日新聞に「相撲の力学」という記事を書いて、掲載されたことがある。切り抜きをなくしたので、どんな事を書いたか覚えていないが、しかし相撲四十八手の裏表が力学の応用問題として解・・・ 寺田寅彦 「相撲」
出典:青空文庫