・・・ 舞台の悪ふざけが加わる度に、蓆敷の上の看客からは、何度も笑声が立ち昇った。いや、その後の将校たちも、大部分は笑を浮べていた。が、俄はその笑と競うように、ますます滑稽を重ねて行った。そうしてとうとうしまいには、越中褌一つの主人が、赤い湯・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・競馬に加わる若い者はその妙齢な娘の前で手柄を見せようと争った。他人の妾に目星をつけて何になると皮肉をいうものもあった。 何しろ競馬は非常な景気だった。勝負がつく度に揚る喝采の声は乾いた空気を伝わって、人々を家の内にじっとさしては置かなか・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・あとの三羽の烏出でて輪に加わる頃より、画工全く立上り、我を忘れたる状して踊り出す。初手の烏もともに、就中、後なる三羽の烏は、足も地に着かざるまで跳梁す。彼等の踊狂う時、小児等は唄を留む。一同 魔が来た、でんでん。影がさいた、もん・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ 朝露しとしとと滴るる桑畑の茂り、次ぎな菜畑、大根畑、新たに青み加わるさやさやしさ、一列に黄ばんだ稲の広やかな田畝や、少し色づいた遠山の秋の色、麓の村里には朝煙薄青く、遠くまでたなびき渡して、空は瑠璃色深く澄みつつ、すべてのものが皆いき・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・なぜなら、長い海の上をゆくには、景色が見えなければ、退屈であるし、また途中から、船をたよって、飛んできて加わるものがないとはかぎらなかったからです。 あるとき、一羽のつばめは、船に乗ろうと思って、遠いところから、急いで飛んできましたが、・・・ 小川未明 「赤い船とつばめ」
・・・林間学校、キャンプ生活、いずれも理想的なるに相違ないが、それには、費用のかゝることであり、無産者の子供は、加わることができない。要は、適当なる社会政策の施されざるかぎり、学校か、町会などにて容易に実行されることでなければならぬ。 これに・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ 浴室では神崎、朝田の二人が、今夜の討論会は大友が加わるので一倍、春子さんを驚かすだろうと語り合って楽しんで居る。二 箱根細工の店では大友が種々の談話の末、やっとお正の事に及んで「それじゃア此二月に嫁入したのだね、随・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・真に社会に善事を成さんとする志有る者は軽忽に実行運動に加わる前に、しばらく意志を抑制して、倫理学を研究する必要があるのである。何が社会的に善事であるかを知らずして実行することは出来ず、行為の主体が自己である以上は自己と社会との関係を究めない・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・せっかくだんだんと彫上げて行って、も少しで仕上になるという時、木の事だから木理がある、その木理のところへ小刀の力が加わる。木理によって、薄いところはホロリと欠けぬとは定まらぬ。たとえば矮鶏の尾羽の端が三分五分欠けたら何となる、鶏冠の蜂の二番・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・またその品物の製作者やその時代に関する歴史的聯想も加わる。あるいは昔の所蔵者が有名な人であった場合にはその人に関する聯想が骨董的の価値を高める事もある。あるいはまた単にその物が古いために現今稀有である、類品が少ないという考えに伴う愛着の念が・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
出典:青空文庫