・・・松下夫妻の故郷で行われる祝典のいきさつ、それに加わる松下夫婦の生活を語っている部分などは、作者が対象と平行して走り、或は歩きつつその光景を読者に話しているやり方であり、この作品の中で芸術的には弱い部分をなしている。 ところが、梅雄につい・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・俺にゃ、それに何故チュフリャノフが共産党反対の組織へ加わるのを拒絶したかも分らん。チュフリャノフは二心のある奴って訳だべか――そうも思われない。富農の奴が詩篇を読む――そんなことがあるかね! ところがパンフョーロフの小説じゃ、読むこと、読む・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・暑気が加わると、騒音はなおこたえた。私は困ったと思いながら、それなり祖母の埋骨式に旅立ったのであった。 フダーヤは、別に何とも云ってはいなかったのに、わざわざ廻り道をし、僅かなつてで家を見つけてくれた。彼女の心持や、新しい一夏をすごす家・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・文芸懇話会賞は、その会の性質が半政治的であったから、詮衡に当っても、文学作品としてのめやすに加わる様々の文学以外の条件があって、内部の紛糾は世人の目前にもあらわれた。 事変以来、日本の文学の姿は実に複雑となって来ている。例えば日露戦争の・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・日本文学古典の伝統を強調すればするほど、その伝統を客観的に、史的に整理するに必要な条件に制約が加わるという事実は、学問として確立する以前に、早今日専門家達を分裂、対立させているばかりでなく、日本人一般が、実際には、日本文学古典についてまだ何・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして内職しながら保護法もうけて生計を保っている未亡人と子供が全体の八五%を占めているといえば、ますますひどい金づまりと税の不安で、最も悲惨の加わるのは農村の身よりにたよって生きる未亡人と子供たちではないでしょうか。 子もちの婦人のため・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・と云ったりする間と、茶を飲み、煙草を吸う時間が加わるので、それだけでもう、大抵の人間は聞き疲れて仕舞う。 大きな声で話すのならそうでもないだろうけれ共、低い低い声でうめく様に云うのだから、聴くものの気がめ入る様に陰気になって来る。 ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・サークルでもこうした今年のメーデーの意義を話しあったり行列に加わるように相談が必要だ。そのために『文新』婦人読者はうんとのり出して働かねばならない。そしていよいよ当日となったらあなたがたの職場、村、町でどんな大衆の示威が行われ、人がどれだけ・・・ 宮本百合子 「婦人読者よ通信員になれ」
・・・それはお馬廻りのものがわざと先手に加わるのをお止めなされたのである。このたび御当主の怪我をするなとおっしゃるのは、それとは違う。惜しい命をいたわれとおっしゃるのである。それがなんのありがたかろう。古い創の上を新たに鞭うたれるようなものである・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・断層のために幾分弟子たちの間に感情のこだわりができたのは、芥川の連中が加わるようになってからではないかと思う。そのころ私は鵠沼に住んでいた関係で、あまりたびたび木曜会には顔を出さなかったし、またたまに訪れて行った時にはその連中が来ていないと・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫