・・・学童を愛する点に於いては、学童たちの父母に及びもつかぬし、子供の遊び相手、として見ても、幼稚園の保姆にはるかに劣る。校舎の番人としては、小使いのほうが先生よりも、ずっと役に立つし、そもそもこの、先生という言葉には、全然何も意味が無い。むしろ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・麒麟も老いては土馬に劣ると申す事あり。云々。」 次は藤村の言葉である。「芭蕉は五十一で死んだ。これには私は驚かされた。老人だ、老人だ、と少年時代から思い込んで居た芭蕉に対する自分の考えかたを変えなければ成らなくなって来た。『四十ぐらいの・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・伊吹山 六九、二 岐阜 四十、二敦賀 七二、八 京都 四九、二彦根 五九、〇 名古屋 三〇、二 すなわち、伊吹山は敦賀には少し劣るが、他の地に比べては、著しく雨雪日の数が・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・それでも講義の時の口調で「これではブラックホールの苦しみに優るとも劣ることはない」といって生徒を笑わせた。当時マコーレーのクライヴ伝を講じていて、ブラックホールの惨劇が一同の記憶に新鮮であったのである。 酷寒の季節に酷暑に遭った例がある・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・人として虫に劣るべけんやというような結論は今日では全く無意味な事である。それにもかかわらず虫のする事を見ていると実に面白い。そして感心するだけで決して腹が立たない。私にはそれだけで充分である。私は人間のする事を見ては腹ばかり立てている多くの・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・沢山に並べた栗のいがばかりしゃぶらせるような教科書は明らかに汽車弁当に劣ること数等であろう。 一体「教えるためには教えない術が必要である。」というパラドックスが云わば云い得られなくはない。 中学校でS先生から生物学の初歩を教わったと・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・しかしながら文学美術工芸よりして日常一般の風俗流行に至るまで、新しき時代が促しつくらしめる凡てのものが過去に比較して劣るとも優っておらぬかぎり、われわれは丁度かの沈滞せる英国の画界を覚醒したロセッチ一派の如く、理想の目標を遠い過去に求める必・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・この必要条件を具備しない国家的保護と奨励とはなきに優ると寛仮するよりも、むしろあるに劣ると非難する方が当然である。 作物の現状と文士の窮状とは既に上説の如くであって、ここに保護のために使用すべき金が若干でもあるとすれば、それを分配すべき・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・這入らない先から聞しに劣る殺風景な家だと思ったが、這入って見るとなおなお不風流だ。しかのみならずどの室にも荷物が抛り込んであってまるで類焼後の立退場のようだ。ただ我輩の陣取るべき二階の一間だけが少しく方付てオラレブルになっている。以前の部屋・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ゆえに万国の歴史を読まざるものは、聾者に劣る。第七、脩心学 人は万物の霊なり。性の善なる、もとより論をまたず。脩心学とはこの理に基き、是非曲直を分ち、礼義廉節を重んじ、これを外にすれば政府と人民との関係、これを内にすれば親子・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
出典:青空文庫