・・・この点より論ずるときは、仕官もまた営業渡世の一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等を区別するものにして、官途にはおのずから抜群の人物多きがゆえに、位階勲章を得る者の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ ところが秋田から山形沿線の稲田のひろがりには、見ているうちに、一種こわいような気がして来るほどに先祖代々からの農民の労力がうちこめられている。無駄な一本の畦幅さえそこには見られない、きっちりとすき間もなく一望果ない田圃になっていて、盆・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・ そうしてみると、良人の協力ということは、今あるままの労力のひどい台所仕事をそのまま男もやってやるということではなく、台所家事仕事そのものにしろ、もっと時間をとらない合理的なものにしてゆくそのことに協力することであるとわかって来る。男と・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ これは、わたしたち日本の国民が、すべての公共物を自分たちの計画と資力・労力で建て、それを自分たちで愉快に使う場所とする習慣がなかったからです。つまり、社会万端の施設も、民主の方法で利用されるものでなかったからでしょう。 せまい・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・不況な農村のありあまった労力が現金にかえられるところに、親のよろこびもあるであろう。 けれども、作業場といえば、おのずから採光や換気のことも考えられる。日本が世界第一の結核国であり、若い女の死亡率が最高であることも考えられる。 工場・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ところが、職業の種類で結婚のあいてにめぐり合うことがむずかしくなったり、結婚生活と職業とが労力的に両立しがたかったりして、そういう困難にぶつかると、女のひとはそれを我々の今日生きている社会のおくれた形から蒙っている男女の損失として見るより先・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・これらの人々は自分たちの労力と親切との結果が中途で妙なことになるのを見抜いていやがっているのである。 農林大臣は無策の極、米の専売を考えているという発表をしている。あの記事を尤もと思ってよんだ人民は恐らく一人もないであろう。「専売」はタ・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・安国寺さんは全く違った方面の労力をしなくてはならぬので、ひどく苦しんだ。 暫く立って、F君は第一高等学校に聘せられたが、矢張同じ下宿にいて、そこから程近い学校に通うので、君と安国寺さんとの関係は故のままであった。 ―――・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・そうしてたといその困難に克ち得たとしても、彼はその労力に酬いられないことを感ずるだろう。なぜなら彼にとって、豊太閤という人物を十分に描き得たことと、自分の顔を完全に描き得たこととの間に、何らの重大な区別もないからである。この点において洋画は・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・そうして芸術的労力そのものが先生の心を満足させた。炎熱の烈しかったこの暑中も、毎日『明暗』を書きつづけながら、製作の活動それ自身を非常に愉快に感じていた。そのため生理的にも今までになく快適を感じていたらしかった。 先生が製作によって生の・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫