光ちゃんのお父さん小野宮吉さんは、お亡りになったから、この写真にうつることは出来ません。けれども、鑑子さんは母として音楽家として生活と芸術とのために実に勤勉に一心に毎日を暮し、光ちゃんも益々いい少女として成長している一家の・・・ 宮本百合子 「いい家庭の又の姿」
・・・その表情を見るような見ないような視線のはじにうつしとって、瞬間の皮肉を感じながらゆきすぎる男女の生活は、日々の勤勉にかかわらず三千七百円ベースの底がひとたまりもなくわられつつある物価の高さによろめき、喘いでいるのだ。 こういう様相が文化・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・レンシェンはこの時以来、一生をマルクス家の悲しみと喜びとの中に費してその勤勉と秩序で一家の軸となった。『新ライン新聞』の名誉とケルン市における友人の名誉を救うために、カールはイエニーの銀器類までを含めて一切の財産を売った。イエニーは手紙・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・実現されない希望を多く胸に抱いていくばくかの努力と勤勉の後、生れて居る現実を楽しんで居る。私共は胸に多くの希望があるがために死ぬのはまことにつらい。どれほど美くしく、どれほど見事に自分の希望が達せられるかと思う心が一時でも生にある事を望ませ・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ 作家野上彌生子は、実に勤勉です。自身の仕事については、力量に自信をもって精励であり、研究生のように勉強家です。今日と、明日の社会は、若い時代への健康な同情、人間より意志を理解しようとする良心の極少量さえも熱烈に要求しているのですから、・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ところで、生れつき勤勉で物わかりのいい若いマーニャは、家庭教師としての自分の生活をどんな風に導いていたでしょう。マーニャが世間によくある若い女のように自分の境遇にまけて、一軒でもお顧客をふやそうとあくせくしたり、相手の御機嫌を損じまいと気色・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 戦争というものは、平和を愛し、勤勉に働いて家庭生活を愛している人民の一生を、じかに、無惨に、破壊するものです。そうだからこそ、こんにち、ラジオや出版物で戦争を挑発し、戦争ヒステリーに感染させようとしている者どもは、この地球のどこかに、・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・今年にして見ても四月以後今日までに私の体の事情に合わせれば、相当の勤勉さです。時間のつかいかたをもっと巧みにすることと、それは私を徹夜から防ぐためにどうしても必要です。全く私は変なウシミツ時にあなたに喋りかけては、計らずしっぽを出してしまい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・今日の科学と今日の社会との間で、人間らしい勤勉さ、正義心、人類の発展に対する深い理解と信頼と、そのために献身する人々の生涯の価値が評価できる人間になるに役立つ文学が、小さい人々、われらの後継者のためになくてはならない。 女のひとの文学的・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・朝起は勤勉の第一要件である。お爺いさんのする事は至って殊勝なようであるが、女中達は一向敬服していなかった。そればかりではない。女中達はお爺いさんを、蔭で助兵衛爺さんと呼んでいた。これはお爺いさんが為めにする所あって布団をまくるのだと思って附・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫