・・・袋の文字は大河内侯の揮毫を当時の浅草区長の町田今輔が雕板したものだそうだ。慾も得もない書放しで、微塵も匠気がないのが好事の雅客に喜ばれて、浅草絵の名は忽ち好事家間に喧伝された。が、素人眼には下手で小汚なかったから、自然粗末に扱われて今日残っ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・父が長崎の県知事をしていたときに、招かれて、こちらの区長に就任したのでございますが、それは、ちょうど私が十二の夏のことで、母も、その頃は存命中でありました。父は、東京の、この牛込の生れで、祖父は陸中盛岡の人であります。祖父は、若いときに一人・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・それから此方じゃ、区長、兵事掛。兵事義会の重立ち、何でも礼服を着た方が三方か四方送って下すった。 職業は瓦屋でござえんすけれど、暫らくでもお上の役を勤めていたばかりで、大層お手厚い葬礼でね。此方とらの餓鬼が、屋根から落ちて死んだって、誰・・・ 徳田秋声 「躯」
学者安心論 店子いわく、向長屋の家主は大量なれども、我が大家の如きは古今無類の不通ものなりと。区長いわく、隣村の小前はいずれも従順なれども、我が区内の者はとかくに心得方よろしからず、と。主人は以前の婢僕を誉め、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・みなが自分のまわりを離れ、区長や雑貨屋の方へかたまって彼をぬすみ見ているのに、「驚いた」りするのである。活々した階級的人間的生活の種々雑多の具象性に対し最も感受性が鋭く、個々の具象性の分析、綜合から客観的現実への総括を、あるいはその逆の作用・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ どくろに蛙がとまっている飾もの 掛ものは歌集のきれ くまもなきかゝ見と見ゆる月影に こゝろうつさぬ人もあらしな 云々○近さァを区長にせよう思っとったら洗濯もんの騒ぎしよったから どうとも云い出せんようになってしも・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ ロザリーは、英国のイボッツフィールドの教区長の末娘に生れました。 父親は、ケムブリッジ大学を卒業し、ひとから未来を属望され、自分も大いに活動する気でいたところが、彼の盲滅法な性質から、深い考えもなく或る私塾を開いている牧師の娘と恋・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫