出典:青空文庫
・・・と云ったが実はまだ半信半疑である。半信半疑ではあるが何だか物凄い、気味の悪い、一言にして云うと法学士に似合わしからざる感じが起こった。「もっとも話しはしなかったそうだ。黙って鏡の裏から夫の顔をしけじけ見詰めたぎりだそうだが、その時夫の胸・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・わたしたちの世間知らずのために、種々さまざまのあることないことを外国についてきかされっぱなしで半信半疑でいることは、もう今では、恐ろしいことである。戦争挑発者にとって最もほくそ笑まれる状態は、ある国の人民の間に、はっきりとした根拠はないけれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・夜半青山の御大葬式場から退出しての帰途、その噂をきいて「予半信半疑す」と日記にかかれているそうである。つづいて、鴎外は乃木夫妻の納棺式に臨み、十八日の葬式にも列った。同日の日記に「興津彌五右衛門を艸して中央公論に寄す」とあって、乃木夫妻の死・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・きょうは曝書でもやっていてお休みではないかしら、余り久しぶりに行くんだもの、そう云いながら、本当に半信半疑でそこまで来た。けれども、前をゆく三人ばかりの、いかにも図書館の常連らしい中年の男の人々が次々植込みに消えるところをみれば、きょうは開・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・だのに、右側にあるのがそれらしい。半信半疑に近よったら、長方形の紙に、赤旗編輯局とはり出されて、両開きのガラス戸の入口がしまっていた。 赤旗編輯局。――ひろ子は、その字がよめる距離から入口のドアをあけるまで、くりかえしくりかえし、その五・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・母が、私の身の上を心配し、泣き乍らAの不満なこと、殆ど悪人に近いような観察を話されると、半信半疑になってしまうのだろう。 スエ子を連れて来、「如何うして、左様なんでしょうね、真個に、思うようではないもんですねえ」と云って、小皺の・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・それにつれて、号外の全部に対し、半信半疑な心持になった。全市の交通、通信機関が途絶してしまった以上、内部の正確な報知を、容易に得られない訳だ。〔四字伏字〕行方不明〔四字伏字〕、〔六字伏字〕と云う諸項が、特に疑いを生じさせた。丁度政界が動揺し・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」