・・・ 慌てた孫に、従容として見向いて、珠数を片手に、「あのう、今しがた私が夢にの、美しい女の人がござっての、回向を頼むと言わしった故にの、……悉しい事は明日話そう。南無妙法蓮華経。……広供養舎利 咸皆懐恋慕 而生渇仰心 衆生既信伏 質直・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・一行三人いずれも白い帷子を着て、おまけに背中には「南無妙法蓮華経」の七字を躍らすなど、われながらあやしい装立ちだった。が、それで気がさすどころか、存外糞度胸ができてしまって、まるで村芝居にでも出るようなはしゃぎ方だった。 お前もおれも何・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・を見つつ育ち、清澄山の山頂で、同じ日の出に向かって、彼の立宗開宣の題目「南無妙法蓮華経」を初めて唱えたのであった。彼は「われ日本の柱とならん」といった。「名のめでたきは日本第一なり、日は東より出でて西を照らす。天然の理、誰かこの理をやぶらん・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・その鄰りに常夜燈と書いた灯を両側に立て連ね、斜に路地の奥深く、南無妙法蓮華経の赤い提灯をつるした堂と、満願稲荷とかいた祠があって、法華堂の方からカチカチカチと木魚を叩く音が聞える。 これと向合いになった車庫を見ると、さして広くもない構内・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
出典:青空文庫