・・・が、その感じから暗澹たる色彩を奪ったのは、ほとんど美しいとでも形容したい、光滑々たる先生の禿げ頭で、これまた後頭部のあたりに、種々たる胡麻塩の髪の毛が、わずかに残喘を保っていたが、大部分は博物の教科書に画が出ている駝鳥の卵なるものと相違はな・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・家には、鳥屋というより、小さな博物館ぐらいの標本を備えもし、飼ってもいる。近県近郷の学校の教師、無論学生たち、志あるものは、都会、遠国からも見学に来り訪うこと、須賀川の牡丹の観賞に相斉しい。で、いずれの方面からも許されて、その旦那の紳士ばか・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ ちょうど隣の家の二階には、中学校へ、教えに出る博物の教師が借りていました。博物の教師は、よく円形な眼鏡をかけて、顔を出してこちらをのぞくのであります。 博物の教師は、あごにひげをはやしている、きわめて気軽な人でありましたが、いつも・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・イヤ、斯様に申しますと、えびす様の抱いていらっしゃるのは赤い鯛ではないか、変なことばかり言う人だと、また叱られますか知れませんが、これは野必大と申す博物の先生が申されたことです。第一えびす様が持っていられるようなああいう竿では赤い鯛は釣りま・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・こういう変化はなぜ起ったか、これは物理化学博物などの科学が進歩して物をよく見て、研究して見る。こういう科学的精神を、社会にも応用して来る。また階級もなくなる交通も便利になる、こういう色々な事情からついに今日の如き思想に変化して来たのでありま・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
博物局十六等官キュステ誌 私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが、四疋の蜂雀がいます。 生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さなかあいらしい蜂雀です。わたくしはその四疋の中・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
前十七等官 レオーノ・キュースト誌宮沢賢治 訳述 そのころわたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、受持ち・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ハドソンの「ラプラタの博物学者」は、野生鳥類の生彩に溢れた観察、記述で感銘ふかいものである。「日本の鳥」は中西悟堂氏によって、どのような日本独特の鳥とそれに対する心を描いているのだろうか。 コフマンは、猿と類人猿の話につづく次の章で変っ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ また、先頃フィリッピンのバシラン島附近で高麗鶯の新種を発見して博物学界に貢献した、博物採集を仕事としている山村八重子さんの自分の仕事に対する愛情は、すべての事情からいわゆる商売気は離れています。彼女には商売気を必要としない生活の好条件・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ハドソンが書いた「ラプラタの博物学者」のような観察の本がないのは何故だろうか? シートンの「動物記」は、熊や鹿やその他の生きものの何ともいえない面白さから、その面白さにつれて我知らずその生活を観察してゆく、その過程を大切なところとして読・・・ 宮本百合子 「シートンの「動物記」」
出典:青空文庫