・・・例のスグカエレであるから、早速舎監に話をして即日帰省した。何事が起ったかと胸に動悸をはずませて帰って見ると、宵闇の家の有様は意外に静かだ。台所で家中夕飯時であったが、ただそこに母が見えない許り、何の変った様子もない。僕は台所へは顔も出さず、・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・中津藩においては古来未曾有の大事件、もしこの事をして三十年の前にあらしめなば、即日にその党与を捕縛して遺類なきは疑を容れざるところなれども、如何せん、この時の事勢においてこれを抑制すること能わず、ついに姑息の策に出で、その執政を黜けて一時の・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・旅費の多き旅行なれば、千里の路も即日の支度にて出立すれども、子を育するに不便利なりとて、一夕の思案を費やして進退を考えたる者あるを聞かず。家を移すに豆腐屋と酒屋の遠近をば念を入れて吟味し、あるいは近来の流行にて空気の良否など少しく詮索する様・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ 本塾に入りて勤学数年、卒業すれば、銭なき者は即日より工商社会の書記、手代、番頭となるべく、あるいは政府が人をとるに、ようやく実用を重んずるの風を成したらば、官途の営業もまた容易なるべく、幸にして資本ある者は、新たに一事業を起して独立活・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・終戦直後、大きな軍需会社は即日職員の解雇をした。そして、一人当りいくらかの纏まった金を、解雇手当として与えた。軍人は部隊の解散に伴って沢山の資材を背負い出しもしたし、金も貰った。特に将校階級がトラックを使ってまで、軍の物資を分け取りしたこと・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・大王は即日太子に位を譲った。新王は十五歳の時に、大王と聖人とを伴なって、女人の恐ろしい国を避け、飛車で日本国の熊野に飛んで来た。これが熊野三所の権現だというのである。 この物語では、女主人公の苦難や、首なくしてなおその乳房で嬰児を養って・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫