・・・ その夜、僕たちはおかみさんから意外の厚遇を賜った。困るわねえ、などと言いながらも、そっとお銚子をかえてくれる。われら破れかぶれの討入の義士たちは、顔を見合せて、苦笑した。 僕はわざと大声で、「鶴田君! 君は、ふだんからどうも、・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・尤も持主たる余の方でもペリカンを厚遇しなかったかも知れない。無精な余は印気がなくなると、勝手次第に机の上にある何んな印気でも構わずにペリカンの腹の中へ注ぎ込んだ。又ブリュー・ブラックの性来嫌な余は、わざわざセピヤ色の墨を買って来て、遠慮なく・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫