・・・即ち事の要用に出でたるものにして、いやしくも家風に厳格を失うか、もしくは主人に短気無法の威力なきにおいては、かの不品行の弱点を襲わるるの恐れあればなり。世間の噂に、某家の主人は内行に頓着せずして家事を軽んじ、あるいは妻妾一処に居て甚だ不都合・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・今日のビジテリアンは実に印度の古の聖者たちよりも食物のある点に就て厳格である。されどこれ畢竟不具である畸形である、食物のみ厳格なるも釈迦の制定したる他の律法に一も従っていない。特にビジテリアン諸氏よくこれを銘記せよ。釈迦はその晩年、その思想・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・外見はまことに厳格なものらしい面持をして居るけれ共、その胸の中には、完全な感情を育んで居るものである。「真」は親を愛する事も、他人を愛する事をも知って居る。 故に、基督は、「汝の敵を愛せよ」と叫んだ。 何故に、汝の敵を忘れよと叫・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・自分で、物価の統制に関する法律が悪法であると明言しながら、それが法律であるからにはひとにも厳格に適用し、自分もそれで死ぬことをむしろいさぎよしとしたこの判事の悲劇は、「葦折れぬ」の純情がその社会問題のうけとりかたでは文部省版であったことの遺・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・らしく、ジイドは、ゴーリキイやダビや、オストロフスキー、その他新社会の建設の中に生命を捧げた人々への無限の愛を表すために、自身のソヴェト旅行記をますます「いつもよしとして称讚したいものにたいして、最も厳格である」という自分の精神に従って「何・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・モスクワの方は劇場を持っていないが郊外にあるコンムーナの家で厳格な稽古、政治的な勉強をやりながら活溌に移動演芸団として多くの倶楽部を廻って皆を喜ばしている。その時「トラム」は革命劇場でやったが偉い人気だ。吾々なんか二度も切符を買いに行ったが・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・病舎の燈火が一斉に消えて、彼女たちの就寝の時間が来ると、彼女らはその厳格な白い衣を脱ぎ捨て、化粧をすませ、腰に色づいた帯を巻きつけ、いつの間にかしなやかな寝巻姿の娘になった。だが娘になった彼女らは、皆ことごとく疲れと眠さのため物憂げに黙って・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・ それでは青春を厳格に束縛し鍛錬して行くのがいいか。――もちろんそれはいい事です。青春期に道義的情熱をあおり立てるのは、どの他の時期よりも有効です。しかしこの事は多くの場合に方法を誤られていると思います。なぜなら、道義的情熱は内から必然・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・一つの不幸を真に意義深く生かす所の力は、あくまでも自己自身についての微妙な、鋭敏な、厳格な認識と批評とである。事実の責任を他に嫁せずして自己に帰することである。我々は自己の運命を最もよく伸びさせるために、いたずらに過去をくやしがるような愚に・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・人生は厳格である。人間の向上はまじめなる努力を要する。仮面に精髄を抜き去ったる肉骸を覆うてごまかさんとするは醜の極みである。血なき大理石の像にも崇高と艶美はある。冷たきながらも血ある「理性権化」先生は蝦蟇と不景気を争う。この道徳の上に立つ教・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫