・・・来る人も少ないので祖母は長い事引きとめ、いろいろ食べさせたり、飲ませたりして、反物をお祝だと云ってやった。涙を襦袢の袖で拭きながら、「お前もまあこれで一人前の男になったと云うものだ。これからは嫁さんさがしにせわしい事だねえ。・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、角力と芝居と花柳界の繁昌は未曾有であるが、歌舞伎座で来週は何がかかるかと訊く観客が出現しているということ。然し現代風俗として見るとき、これらの現象はこれだけ・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ 文学はわれわれの生きている現実の生活を突きつめてそれを芸術化して行くところに生れるのであって、われわれのぶつかる現実を、あれでもない、これでもないと、反物を選るときのように片はじからなげすてて行けばその底から或る特殊な文学的現実という・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・ が、今先へ行く彼女の包みは油井の反物だ。 午後三時のデパアトメントストア。天井に舞い上った風船玉。華やかなパラソル。リズム模様、最新流行モダーン染。 ――上へ参ります、上へ参ります。 ――美容術をやって見せるんだよ。 ・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・りよへも本多から「反物代千疋」を贈り、本多の母から「縞縮緬一反、交肴一折」を贈った。 文吉は酒井家の目附役所に呼び出されて、元表小使、山本九郎右衛門家来と云う資格で、「格段骨折奇特に附、小役人格に被召抱、御宛行金四両二人扶持被下置」と達・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫