・・・コオペラティヴと取引きが出来なくなったものだから」 僕等の乗った省線電車は幸いにも汽車ほどこんでいなかった。僕等は並んで腰をおろし、いろいろのことを話していた。T君はついこの春に巴里にある勤め先から東京へ帰ったばかりだった。従って僕等の・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 仁右衛門はこの取引をすましてから競馬場にやって来た。彼れは自分の馬で競走に加わるはずになっていたからだ。彼れは裸乗りの名人だった。 自分の番が来ると彼れは鞍も置かずに自分の馬に乗って出て行った。人々はその馬を見ると敬意を払うように・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ところがその返事は意外にも、「あの小説は京都の日の出から直接に取引をしたものであれば、他に少しも関係はありません」と剣もほろろに挨拶をされて、悄然新聞社の門を出たことがある。 されば僕の作で世の中に出た一番最初のものは「冠弥左衛門」で、・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・お魚はほんのつけたりで、おもに精進ものの取引をするんですよ。そういっては、十貫十ウの、いまの親仁に叱られるかも知れないけれど、皆が蓮根市場というくらいなんですわ。」「成程、大きに。――しかもその実、お前さんと……むかしの蓮池を見に、寄道・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・そこで、私は町の中部のかなり賑かな通へ出て、どこか人にも怪まれずに、蹲むか腰掛けかする所をと探すと、ちょうど取引会所が目についた。盛んに米や雑穀の相場が立っている。広い会所の中は揉合うばかりの群衆で、相場の呼声ごとに場内は色めきたつ。中には・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・今まで根強く嫌悪していたものが、ここでは日常茶飯事として簡単に取引きされていたのだ。そういうことへの嫌悪にあまりに憑かれていた自分があほらしくなった。豹一ははじめて女を知った。けれども、さすがに窓の下を走る車のヘッドライトが暗闇の天井を一瞬・・・ 織田作之助 「雨」
・・・第一、銀行の取引がない。だから、いちいち指定の市内の銀行まで取りに行かねばならぬのだが、家政婦は市内の東も西もわからぬ女である。といって十吉が起きて行く頃にはもう銀行は閉っている。ずるずるべったりに放って置いて、やがて市内で会合のある時など・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・おきんの亭主はかつて北浜で羽振りが良くおきんを落籍して死んだ女房の後釜に据えた途端に没落したが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主は恥をしのんで北浜の取引所へ書記に雇われて、いわば夫婦共稼ぎで、亭主の没落はおきんのせいだなどと人に後指ささせぬ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「もっとも今も話したようなわけで、破産騒ぎまでしたあげくだから、取引店の方から帳簿まで監督されてる始末なんで、場合が場合だから、二階へ兄さんたちを置いてるとなると小面倒なことを言うかもしれませんが、しかしそれとてもたいしたことではないん・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・私は医科の小使というものが、解剖のあとの死体の首を土に埋めて置いて髑髏を作り、学生と秘密の取引をするということを聞いていたので、非常に嫌な気になった。何もそんな奴に頼まなくたっていいじゃないか。そして女というものの、そんなことにかけての、無・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
出典:青空文庫