・・・私は、今日女性の心の中には、新たに目覚めた人としての燃えるような意図と共に、過去数百年の長い長い間、総ての生活を受動的、隷属的に営んで、人及び自分の運命に対しては、何等能動的な権威を持ち得なかった時代の無智、無反省、無責任の遺物が潜んでいる・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・さもなければ、緊張と中絶との全然受動的なくり返しで、かえって気が疲れるのである。 ガアガアと反響のつよい建物中をあれ狂っていたラジオが消えると、ホッとした休安を感じつつ、ある日曜の午後、私はかつて音に関して自分の注意をひいたことのある一・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・それは要するにその点の再吟味であり、散文精神が今日の文学の受動性の枠づけとならぬよう、文学のリアリティーを風俗小説の範囲にとじこめぬよう、そのことが論ぜられたのであったと思われる。 この二三年来、各作家はめいめいの個人の生きかたとい・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 太宰治の死に際して、受動的な形であらわれた民主的批評の実質についての危機は、つづいて一昨年の初夏、多くの文学者が、反ファシズムと戦争反対の要求にたって民主的陣営との統一的な動きにすすんで来てから、今日にまでの民主的批評家の活動にあらわ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・であり、バルザックがフランスの全歴史を描いている、典型的な時代における典型的人物を描いたリアリストであるというような手紙をドイツからイギリスの或る女作家に書いた人の手紙が出たからと云って急に瑣末描写と受動性のお守りにつかおうとするようなのが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・隅から隅まで語りつくされているこせこせした頁を明けくれ眺めて、子供の心は受動性ばかりつよめられてゆくだろう。小学校一年生の算数の本にもこの紙面にスペースの足りない憾みは感じられるのである。良書は内容の徳性に加えて、子供の心理の抑揚の溌剌さが・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・このような形で残されている日本的なものの中の知的ならざる影は、今日のような作家の受動的気分の時期に案外にもゆるがせに出来ない退嬰性、無批判性となって甦っていることが認められる。近代日本が、政治経済に於て官製であったと同じように文化も官製の性・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ニズムの文学が提唱後四年経た今日に至っても未だ一種模糊退嬰の姿におかれているのは、社会情勢によるとは云え、その出発に於て、プロレタリア文学の蓄積と方向とを否定しつよくそれと対立しつつ、悪化する情勢には受動的で、社会矛盾の現実は知識人間にも益・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・また、女自身が、兵士への慰問というと、たちまちある型で女らしさと考えられている感情の習慣的な面だけで、少女小説的に受動的にだけポーズするのも、まことにたよりない。そういう女の甘さや感傷が、自身は暖い炉辺で慰問靴下をあみつつ、美食家のエネルギ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・現実の推移をその受動性のために最もあからさまに映してゆく女性が、系譜的な作品にとって、てっとりばやい主人公とされていたことに、この系列の文学の弱さが語られた。系譜的作品が時代と人との意欲から生れる発展的な生活の物語とならず、いわば流転譚の域・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
出典:青空文庫