・・・現在自分の口から言出して置きながら、人に看透かされたと思うと直ぐコロリと一転下して、一端口外した自家意中の計画をさえも容易に放擲して少しも惜まなかったのはちょっと類の少ない負け嫌いであった。こういう旋毛曲りの「アマノジャク」は始終であって、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ しかし万一もし盗んでいたとすると放下って置いては後が悪かろうとも思ったが、一度見られたら、とても悪事を続行ることは得為すまいと考えたから尚お更らこの事は口外しない方が本当だと信じた。 どちらにしてもお徳が言った通り、彼処へ竹の木戸・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・先生はピヤノに手を触れる事すら日本に来ては口外せぬつもりであったと云う。先生はそれほど浮いた事が嫌なのである。すべての演奏会を謝絶した先生は、ただ自分の部屋で自分の気に向いたときだけ楽器の前に坐る、そうして自分の音楽を自分だけで聞いている。・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・然るに日本人は之を口外して平気なりと言う。当人の知らぬことゝは言いながら羞かしきことならずや。尚お此外にも今の世間に見苦しく聞き苦しきことは一にして足らず。畢竟婦人の罪とのみ言う可らず、社会の先達たる学者教育家の不深切と、政府の筋の無学不注・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫