・・・倫理に於いても、新しい形の個人主義の擡頭しているこの現実を直視し、肯定するところにわれらの生き方があるかも知れぬと思案することも必要かと思われる。 太宰治 「新しい形の個人主義」
・・・ × まったく新しい思潮の擡頭を待望する。それを言い出すには、何よりもまず、「勇気」を要する。私のいま夢想する境涯は、フランスのモラリストたちの感覚を基調とし、その倫理の儀表を天皇に置き、我等の生活は自給自足のアナキ・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・日本の文学には無産派文学運動が擡頭していて、アナーキズムとボルシェビズムの対立のはっきりしはじめた時代であった。蔵原惟人・青野季吉その他の人々によって、芸術の階級性ということが主張され、文学の社会性の課題がとりあげられていた。文学様式として・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・をかざして、一方に擡頭しつつあるファッシズムとその文学の警戒すべき本質をさとらずに、右にも左にもわずらわされない「自由な自意識の確立」に歓声をあげていた情況は、まざまざとうつされている。天皇制の「非常時」専制があんまり非人間的で苦しく、重圧・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・世界ファシズムがふたたび擡頭していること、日本の屈従的な政府は、自身の反歴史的な権力維持のためには、人民生活を犠牲にして大木のかげに依存していることなどについて明瞭に理解してきた。一九四八年のなか頃から、国内にたかまってきている民族自立と世・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・これらの作家たちは無産階級運動とその芸術運動の擡頭しはじめた日本の新しい社会と文学の動揺のなかに、各自の発展の道を求めなければならなかったのであったが、これらの人々がこんにち自身をおいている状態からみても一目瞭然であるとおり、誰もが自身の既・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・キリスト教の文化から背を向ければ、芸術的気質のない葉子には、擡頭しようとする日本の資本主義の社会、その社会のモラル、いわゆる腕が利く、利かぬの目安で人物を評価する俗的見解の道しか見えなかったことは推察される。 作者は一九一七年に再びこの・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 擡頭しはじめた町人が、金の力にまかせて、贅沢な服装をし、妻女に競争でキラをきそわせたことは西鶴の風俗描写のうちにまざまざとあげられている。幕府はどんなに気をもんで、政治的な意味でぜいたく禁止令を出したろう。それは、町人たちによって、き・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ しかしながら、菊池寛のこれらの時代ものを素材としたテーマ小説をよみ終ると、私たちの心にはやがて新たな疑問が擡頭して来ることを否めない。成程、あらゆる人間はあらゆるとき生を欲している。しかしその表現の歴史としての複雑さは、三浦右衛門や俊・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・満州問題がおこって以来、婦人雑誌を読む女のひとの間に和歌と習字との流行が擡頭している事実を考え、またそのことと、今度平生文相が行おうとしている学制改革案で男の学生には「労働証」女の学生には「家政証」を制定することとを思いあわせ、私は自分もひ・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
出典:青空文庫