・・・ 小慧しくよそおった社会的な地位や名声に目を眩まされて牛を売りそこねないよう、諺の汚名をそそぐように勉強しましょう。〔一九四六年一月〕 宮本百合子 「家庭裁判」
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分は何も個人的に知ってはおりません。 た・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・に参加して、戦時国債や貯金の誘説のほかに働き、その名声は、戦争の進行につれて益々被いがたくなって来た国内の生活崩壊の事態を、あれやこれやと彌縫するためにだけ利用されるという惨めな状態に陥ったのであった。 今日、人民全体が既成の「政治」に・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 颯っと短いマントに短剣を吊って、素早く胡瓜売りの手車の出ている角を曲ったのは、舞踊で世界的名声のあるカザークの若者だ。 ホテルの食堂で、英語、ドイツ語がロシア語と混って響くばかりでない。喉音の多い東洋語が活々とあっちこっちで交わさ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 日本に資本主義社会でみられるような個人的な才能の開花、個人的な成功とその名声をたのしむような女性の経験が乏しいために、「民主的」と云われる現代では、なんとなく個人的な開花を渇望する気分があります。インテリゲンチャには、とくにこのことが・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・――名声ある作家と愛された女優との夫妻は、彼等のあたたかい、誠実な才能に溢れた手紙の中で、劇について、芸術の本質について、香水と雑誌について語る。が、忘れず最後に、作家は夫として書いている。――お前が羨しい、横着者奴、お前は風呂へ行ったね―・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・身の上相談の解答者となる女の先輩達は、そのことによって或る程度まで自身の社会的名声というようなものをも拡大するのであるが、上述のような世渡りのこつめいたものが必要とされ、結局は、女が同じ女の愚かさで食うということになる。そこには、今日の女の・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・かように一面には当時の所謂文壇が、予に実に副わざる名声を与えて、見当違の幸福を強いたと同時に、一面には予が医学を以て相交わる人は、他は小説家だから与に医学を談ずるには足らないと云い、予が官職を以て相対する人は、他は小説家だから重事を托するに・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・しかしその名声を慕ってその門に入る人があればそれはばかだ。この足の天才はただ一人寂しい道を歩ませておけばよい。デュウゼは足で画くラファエロである。 露都の一夜、なつかしきエレオノラのために狂舞したヘルマン・バアルはかくして世評に対する彼・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・は多くの場合に対世間的な根の浅い名声の案山子である。博士であると否とにかかわらず学者の価値はその仕事の価値によってのみ定まる。しかも世間は「博士」が大きい仕事の標徴であるかのごとくに考えている。そこに不正と虚偽がある。この点についてはおそら・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫