・・・神戸なる某商館の立者とはかねてひそかに聞き込みいたれど、かくまでにドル臭き方とは思わざりし。ドル臭しとは黄金の力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は少しもなくて、学者、宗教家、文学者、政治家の類を一笑し倒さんと意気込む人の息気を・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・なんでも草花の種や球根を採ってはY港のある商館へ売り込みに行くらしかった。その西洋人が去年シャンハイへ転じて行く時に、姉の貸し家の畑へ置きみやげにいろいろなものを残して行っただろうという事は、きわめてありそうな事である。それがことしたくさん・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・こうやって演壇に立って、フロックコートも着ず、妙な神戸辺の商館の手代が着るような背広などを着てひょこひょこしていては安っぽくていけない。ウンあんな奴かという気が起るにきまっている。が駕籠の時代ならそうまで器量を下げずにすんだかも知れない。交・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・正直に云うと、自分はこの高いダブル・カラーをつけ、桃色の頬ぺたをして外国商館の番頭に似た作家を余りすいているとは云えないのである。 ところが、このリージン氏が明朝自分たちもグルジンスカヤ山道をチフリスへ行くから一つ仲間にならないかと申し・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・遠方の熾んな活動を暗示するどよめきさえ、昼近い雨あがりのその辺には響いて来ない。商館の番頭、小荷揚の人足も、長崎では今が昼寝の時間ででもあるのだろうか。一つの角を曲る時、幌の上を金招牌が掠めた。黒地に金で“Exchange. Chin Ch・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫