・・・ 大人も、友達も、皆のんきに笑い、喋り、追いかけっこをして遊んでいるのに、たった独りぼっちの自分は、なぜこんなに淋しく、こんなにも悲しい目に会わなければならないのだろう……。 仕合わせや、楽しさは、皆、皆もうあの女王様や王様と一緒に・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・いかにも学年試験で亢奮しているらしく、争って場席をとりながら甲高な大きな声で喋り、「アラア、だって岡崎先生がそう云ってたよ、金曜日だってよ」「豊ちゃん! と、よ、ちゃんてば! 飯田さんやめたよ」 次の駅でその女学生たちは大抵降り・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・ そして種々恐ろしい様子を想像して見れば見る丈、今斯うやってきのうと同じに、歩き喋り考えて居られる自分が、又外の家中の者が、ほんとに仕合わせであった様に思わずには居られなかったのである。 巡査は間もなく帰って行った。 けれ共、段・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・私共二人、もう行手の丘の上に天主堂の大きく新しい城のような建物を望み何心なく喋りながら、一軒の床屋の前に通りかかった。床屋の前の床几に五六人、七つ八つから十三四までの男の子が集っている。ちょうどあった泥たんこを、私共は左右によけて一二歩歩い・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ とうとう喋りまかされた禰宜様宮田は、海老屋まで出かけることになった。 店の繁盛なことや、暮しのいいことなどを、しまいに唇の角から唾を飛ばせながら喋る番頭の傍について、在の者のしきたり通り太い毛繻子の洋傘をかついだ禰宜様は、小股にポ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・他に身寄りもないので、彼女は喋りに来るのであったが、天気のどんなによい日でも、この長火鉢の前にいると戸外に日が照っていることを忘れてしまうようであった。「作さんも、おかみさん貰えばいいのに――」「ふん――何してるんだか――なに、この・・・ 宮本百合子 「街」
・・・話題、その喋りかたさえ気がおける。 たとえ娘の室は立派に独立していたとして、余程鈍感な娘さんならともかく、さもなければ、やはり、友達のものではない周囲の支配的な雰囲気に対して、居馴染みかねるものがある。お嬢さんをきらい娘という呼びかたを・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・ 林町へ行くか……行ったら又お母様とお喋りで駄目だろう「まあ、真逆毎日喋り続けては居ないことよ 泰子は、笑った。「自分の育った処ですもの、私も、偶には『いっさんばらりこ』を聞かないで、さっぱりするでしょう、真個に此処は喧しいんで・・・ 宮本百合子 「われらの家」
出典:青空文庫