・・・ この表中にヨーロッパやアメリカなどの火山が出て来るのを見て笑う人もあろうと思うが、しかし南洋語と欧州語との間の親族関係がかなり明らかにされている今日、日本だけが特別な箱入りの国土と考えるのはあまりにおかしい考えである。これについてはど・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・われわれの祖先から住み古したこの国土の地質自身からがすでにあらゆる世界じゅうのものの縮図的にできているのではないか。その上に、人種の上から考えても、灰色の昔から、日のいずる方を求めて世界のあらゆる方面から自然にこの極東の島環国に集中した種族・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・物語の背景は現にわれわれの住むこの日本のようであるが、またどこかしら日本を遠く離れた、しかし日本とは切っても切れない深い因縁でつながれた未知の国土であるような気もする。そうかと思うとどこかまたイギリスのノーザンバーランドへんの偏僻な片田舎の・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・狭い国土の中に限られた経験だけから帰納して珍稀と思われるものの存在を否定してはいけないということを何遍となく唱えている。先ず『諸国咄』の序文に「世間の広き事国々を見めぐりてはなしの種をもとめぬ」とあって、湯泉に棲む魚や、大蕪菁、大竹、二百歳・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 早い話が、平生地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えているような気がしないわけには行・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・三 人種の発達と共にその国土の底に深くも根ざした思想の濫觴を鑑み、幾時代の遺伝的修養を経たる忍従棄権の悟りに、われ知らず襟を正す折しもあれ。先生は時々かかる暮れがた近く、隣の家から子供のさらう稽古の三味線が、かえって午飯過ぎ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・長煙管で灰吹の筒を叩く音、団扇で蚊を追う響、木の橋をわたる下駄の音、これらの物音はわれわれが子供の時日々耳にきき馴れたもので、そして今は永遠に返り来ることなく、日本の国土からは消去ってしまったものである。 英国人サー・アーノルドの漫遊記・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・露西亜は欧米の都会に在ってさえ人々の常に不可思議なる国土となす所である。況やわたくしは日本の東京に於て偶然露西亜語を以て唱われた歌曲を聴いたのである。九月一日初日の夜の演奏はたしか伊太利亜の人ウエルヂの作アイダ四幕であった。徐に序曲の演奏せ・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・アメリカの曠野に立つ樫フランスの街道に並ぶ白楊樹地中海の岸辺に見られる橄欖の樹が、それぞれの姿によってそれぞれの国土に特種の風景美を与えているように、これは世界の人が広重の名所絵においてのみ見知っている常磐木の松である。 自分は三門前と・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・竜動に巍々たる大廈石室なり、その市街に来往する肥馬軽車なり、公園の壮麗、寺院の宏大、これを作りてこれを維持するその費用の一部分は、遠く野蛮未開の国土より来りしものならん。ただに遠国のみならず、現に両国境を接する日耳曼と仏蘭西との戦争において・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
出典:青空文庫