・・・実際我我は何かの拍子に死の魅力を感じたが最後、容易にその圏外に逃れることは出来ない。のみならず同心円をめぐるようにじりじり死の前へ歩み寄るのである。 「いろは」短歌 我我の生活に欠くべからざる思想は或は「いろは」短歌に尽・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・おそらくわれわれの注意はその音楽のほうに吸収されて視覚のほうが消えてしまうか、あるいはかえって音楽のほうがわれわれの注意の圏外を上すべりにすべり越してしまうことになりはしないか。ともかくもこれは発声映画製作者に一つの問題を提出するものであろ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・こう考えると、形が不規則だとか、reproducible でないからとか言って不規則な放射像を物理学の圏外に追いやる必要はないであろう。光の場合の不規則は人間の感官認識能力の低度なおかげで「見えない」から平気であるが、現在の場合は「見える」・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・そうなってしまえば、もうジャーナリズム的批評の圏外に出てしまって土に根を下ろしたことになるであろうが、今のジャーナリズムの世界ではそういうことはちょっと困難なように見える。 以上は自分が今日までに感じた随筆難のありのままの記録で、云わば・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・しかし、ともかくも、学校で教わったことの少なくも何十プロセントは綺麗に忘れてしまっていて、例えば自分等の子供に質問されて即座に明答を与えることが出来ない程度にまで意識の圏外に排泄してしまっているのは事実であるらしい。 そんなに綺麗に忘れ・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・しかしメストロウィークを崩したような大物になると、どうにも自分などのようなものの好意の圏外に飛出してしまう。 美術院はほとんど素通りした。どちらを見ても近寄ってよく見ようというような誘惑を感じるものはほとんどなかった。絵でも人間でも一と・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・本来の意味では立派に物理的現象と見るべき現象でも、時代によって全く物理学の圏外に置かれたかのように見えることがありうるのである。 物理学というものはやはり一つの学問の体系であって、それが黎明時代から今日まで発達するにはやはりそれだけの歴・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・それは技巧が跳躍して科学的真の圏外に逸出するためである。 こういう意味で私は本当の漫画と低級なポンチあるいはくすぐり画とを区別したい。後者の実例は場末の玩具屋の店頭で見られる安絵本のポンチなどがそれである。そこには尊い真は失われて残るも・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・というわけをもって物理的なるものの圏外に置かれ、そういう仕事を行なう人たちには「統計屋」なるあまり愉快でない名前がさずけられる場合もあった。実際多くは統計屋であったかもそれはわからない。しかしそういう事実からして、統計的研究――物理学方法論・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 義理人情の着物を脱ぎ捨て、毀誉褒貶の圏外へ飛び出せばこの世は涼しいにちがいない。この点では禅僧と収賄議員との間にもいくらか相通ずるものがあるかもしれない。 いろいろなイズムも夏は暑苦しい。少なくも夏だけは「自由」の涼しさがほしいも・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
出典:青空文庫