一 ぼんやり薄曇っていた庭の風景が、雲の工合で俄に立体的になった。近くの暗い要垣、やや遠いポプラー、その奥の竹。遠近をもって物象の塊が感じられ、目新しい絵画的な景色になった。ポプラーの幹が何と黒々・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・これが秀麿の脳髄の中に蟠結している暗黒な塊で、秀麿の企てている事業は、この塊に礙げられて、どうしても発展させるわけにいかないのである。それで秀麿は製作的方面の脈管を総て塞いで、思量の体操として本だけ読んでいる。本を読み出すと、秀麿は不思議に・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・鶏は庭の隅に塊っていた。 灸は起きると直ぐ二階へ行った。そして、五号の部屋の障子の破れ目から中を覗いてみたが、蒲団の襟から出ている丸髷とかぶらの頭が二つ並んだまままだなかなか起きそうにも見えなかった。 灸は早く女の子を起したかった。・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・しかし若葉を緑色の塊として現わそうとする一本調子なもくろみが、あまりにも単純な自然の観照を暴露している。そうしてここにも機械的な繰り返しが、画面の単調と希薄とを感じさせるのである。特に画の下方のうるさいほどな緑塊重畳においてそうである。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫