・・・ 科学者の社会的基調 昨今の社会情勢は推移して、もはや科学性のそれ以上の発展と支配力の利害とは一致し得なくなって来た。科学に対する統制は科学の発展を阻害して目前の功利主義へひきとめる形としてあらわれて来ている。・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・むA村の農民の生活にとって、こういうさまざまのいりくんだ関係はどんなに日常の制約となっているか、米作と炭やきと日雇稼ぎとはA村の全生活でどういう組合せになっているかというようなことが、じっくりと全篇の基調としてとりあげられたならば、部分部分・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・この婦人に対する一見知的で実は感覚的なものの上に立つ思想はトルストイの全芸術を貫く一つの著しい基調となっている。 トルストイアンと称する連中にとりかこまれ、無抵抗主義の信条で、全財産を放棄したがっているトルストイの希望に、怯え、憎悪し、・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・その意味では、火野の諸作も幾多のルポルタージュも文学の基調を一変させるものではなかった。それらのものと、従来の文学とはそれぞれのものとしてありつづけたのである。 ところが、この年の初頭に一部の指導的な学者・文筆家が自由を失い、また作家の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・しかし、民主的な文学なら、必ずそこを基盤としなければならない民衆の健やかで平明で条理のとおった現実的判断が、この試作の基調となっています。読んで、アクのつよい、いやな後味は一つもなかったでしょう? 小さいけれども、まともなものです。『新日本・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・氏は、転落する地方地主の生活に突入っていわばその骨を刻むように書いているつもりなのであるが、結局その努力も主題を発展的な歴史の光によって把握していないから、現象形態だけを追うに止り自身の粘り、社会観の基調がいかに富農的なものであるかまでを鋭・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・着物もつまりは、その生活の二つの基調に適合した変化が必要だし、その必要をみたすことが衣服の最低の条件なのだろうと思う。 簡単服という言葉はホーム・ドレスを意味する日本名だが、日本の女性たちの生活は、働き着として朝身につけたその簡単着を、・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・の作者が、その真率でたゆみない天質によって、社会現象に対しては常にまともから相応ずる生き方で、今日までを打ち貫いて来ていることは、作品を一読して、その基調を明かに感じるのである。それでいながら、この作者には、口を開いてそのような経験を語ると・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・の集に翻訳され、戦後の「播州平野」は、ソヴェトの文学新聞に、日本で広汎に支持されている階級的作品として紹介され、中国語にもほんやくされています。この事実は何を語るでしょうか。「播州平野」「風知草」の基調にあるものが前衛党とその活動家の新しい・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・でも、主題はやはりその基調の上に立てられている。ある作品が、題材的には極めて具体的であるが、主題は必ずしも客観的な現実をとらえ深められているのではない場合、作品の歴史的真実性は減殺されざるを得ない。特に、この種の作品は、作品の出現の本質に、・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫