・・・こっちの情勢を高島に報告するのであるが、三吉は三吉で、もう今夜の演説会で、「新人会熊本支部」もおしまいだ、などと考えているのだった。「だから、労働者グループは、いまじゃ青井君一人ぽっちですよ」 下宿の二階にあがると、古藤にかわって福・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ この意味においてイズムは会社の決算報告に比較すべきものである。更に生徒の学年成績に匹敵すべきものである。僅一行の数字の裏面に、僅か二位の得点の背景に殆どありのままには繰返しがたき、多くの時と事と人間と、その人間の努力と悲喜と成敗とが潜・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・私の為し得ることは、ただ自分の経験した事実だけを、報告の記事に書くだけである。 2 その頃私は、北越地方のKという温泉に滞留していた。九月も末に近く、彼岸を過ぎた山の中では、もうすっかり秋の季節になっていた。都会から・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ ブリキ屋君が報告した。 ――はたして。と私は言った。 つまり、私たちが、いくら暴れても怒鳴っても、文句を言いに来なかったはずだ。誰も獄舎には居なかったんだ。 あれで獄舎が壊れる。何百人かの被告は、ペシャンコになる。食糧がそ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・云々の談を聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を目し虚偽を伝うる者なりとして、爾余の報告までも概して信を失うに至る可し、日本・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・「報告、きょうあけがた、セピラの峠の上に敵艦の碇泊を認めましたので、本艦隊は直ちに出動、撃沈いたしました。わが軍死者なし。報告終りっ。」 駆逐艦隊はもうあんまりうれしくて、熱い涙をぼろぼろ雪の上にこぼしました。 烏の大監督も、灰・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・ 日本で報告文学が、小説以前の現実状況の報告文学としての意味で、作家と読者との一般的関心の前におかれたのは、今日から数年前、プロレタリア文学のもつ社会性の本質からであった。これまで文学の仕事というものは、今日にあっても室生氏が未だ業なら・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 一枚板とは実に簡にして尽した報告である。知識の私に累せられない、純樸な百姓の自然の口からでなくては、こんな詞の出ようが無い。あの報告は生活の印象主義者の報告であった。 花房は八犬伝の犬塚信乃の容体に、少しも破傷風らしい処が無かった・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ 十五世紀から十七世紀へかけての航海者の報告を総合すれば、サハラの沙漠から南へ広がっているニグロ・アフリカに、そのころなお、調和的に立派に形成された文化が満開の美しさを見せていたということは確実なのである。ではその文化の華はどうなったか・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫