・・・クレムリンの長い外壁は灯のけない暗闇だから、遠いそこだけが何とも云えず輝かしい。 五色のイルミネーションは対岸のモスクワ市発電所にもあって、三百六十四日はむっつり暗いモスクワ河の水を色とりどりにチラつかせている。 モスクワの群集はイ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 人間の男の髭も白い。 午後三時雪が、労働新聞社の高い窓の一つを焔のように燃え立たせた。 ○降誕祭には開いて居た教会の正面の扉に、錠が下ろしてある。 外壁に沿った裏通りに古本屋が露店を出し、空屋に店を出して居るところにモーラ・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・ 続いて堅牢な石の外壁に沿って走り乗合自動車は非常な雑踏のまっ只中に止る。そこは都会の三角州である。ここでは妙に身丈の縮小したように見えるロンドン人が山高帽の波を打たせて右往左往やっている。一つの騎馬像が人間波浪から突立って見えた。英蘭・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・門口を這入って左側が外壁で、家は右の方へ長方形に延びている。その長方形が表側と裏側とに分れていて、裏側が勝手になっているのである。 東京から来た石田の目には、先ず柱が鉄丹か何かで、代赭のような色に塗ってあるのが異様に感ぜられた。しかし不・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫