・・・連句では一景から次の景またその次の景への推移と連絡の必然性によって呼び出される暗示の世界に興味の大半がつながれているが、レビューではそういう連鎖の必然性はほとんど閑却されているようである。それ故に、連句三十六景のコンチニュイティは容易に暗記・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・その頃オペラ館の舞台で観客から喝采せられていた人たちの大半は震災後に東京へ出て来て成功した地方の人のみであった。しかしこの時代も今はまた忽ちにしてむかしとなったのである。平和の克復したこの後の時代にジャズ模倣の名手として迎えらるべき芸人の花・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・ 声を聞くと共に乗客の大半は一度に席を立った。その中には唇を尖らして、「どうしたんだ。よっぽどひまが掛るのか。」「相済みません、この通りで御在います。茅場町までつづいておりますから……。」 菓子折らしい福紗包を携えた彼の丸髷の美・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・世の中の出来事の大半は皆平凡な物だから仕方がない。この家はもとからの下宿ではない。去年までは女学校であったので、ここの神さんと妹が経験もなく財産もなく将来の目的もしかと立たないのに自営の道を講ずるためにこの上品のような下等のような妙な商買を・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・かかる勢にては、この書生輩の行末を察するに、専門には不得手にしていわゆる事務なるものに長じ、私に適せずして官に適し、官に容れざれば野に煩悶し、結局は官私不和の媒となる者、その大半におるべし。政府のためを謀れば、はなはだ不便利なり、当人のため・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・アジアの地図の大半の土地からは、わたしたちが愛した者の最期のうめきがつたわってきます。わたしたちはそのような日本という祖国に生きて、毎日の生活苦と闘いながら同時に人類的なこの苦痛の克服について考えています。 アジアの近代の歴史は、苦しい・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・強烈な火の急流のようなアンナ、または男がいつも我流に女を愛して平然としていることその他、女性の家庭生活の不満に充分苦しみながら「でも、大半は婦人に敵対している社会で、一人で生活しなければならない女性の生活の恐ろしさ」の前にちぢんで、諦めの力・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・父は、大半白い髭をいじりつつ、背をかがめ暖炉の火をかき立てた。 二月の海浜は、まして避寒地として有名でもない外海の浜はさびれていた。佐和子は、妹と並んで防波堤兼網乾し場の高いコンクリートのかげで、日向ぼっこをしていた。正月に、漁師た・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・技術家はそのようにして、今日二十年来の資産の大半を失ったのである。 こういう有様で、その四十万円の修繕をやるにつけても、ドック会社は現金欠乏であった。そこで会社は材料を持つだけにして、労働者の方は、夫々の組から入れさせることにした。組が・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ しかも、日本の軍事的権力によって特別な保護をうけていた企業家たちは、生産の大半を婦人の労力によって行いながら、勤労婦人の福祉施設、母性保護設備、災害予防施設は行わずにきたのです。 今日、日本の組織労働者は四百万人あります。その半数・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
出典:青空文庫