むかし、あるところに一疋の竜がすんでいました。力が非常に強く、かたちも大層恐ろしく、それにはげしい毒をもっていましたので、あらゆるいきものがこの竜に遭えば、弱いものは目に見ただけで気を失って倒れ、強いものでもその毒気にあ・・・ 宮沢賢治 「手紙 一」
・・・やさしげな又おだやかなものしずかな調子で、ペーン お前は泣いて居るネ、そして又大層美くしい。精女はおどろいてかおから手をはなし身をしりぞける。ペーン 何にもそんなにおどろくことはない。私はお前をどうしようと云うのでは・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓し・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・けれども、皆より二つ年が上で、お家が大層なお金持で、いつも俥夫が二人がかりで送り迎えをする友子さんは、級中で、一番着物の好きな人でした。「うちの父様は、日本で沢山ないほどのお金持なのだから私は大人位お金を使ったって構わないのよ」と云う友・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・「体は大層好くなりましたが、なんだかこう控え目に、考え考え物を言うようではございませんか。」「それは大人になったからだ。男と云うものは、奥さんのように口から出任せに物を言ってはいけないのだ。」「まあ。」奥さんは目をみはった。四十代が・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・なるほど大層な材木が石垣に立てかけてある。一群れは石垣に沿うて材木の下へくぐってはいった。男の子は面白がって、先に立って勇んではいった。 奥深くもぐってはいると、洞穴のようになった所がある。下には大きい材木が横になっているので、床を張っ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・そしてその客の親疎によって、「あなた大層お見限りで」とか、「どうなすったの、鼬の道はひどいわ」とか云いながら、左の手で右の袂を撮んで前に投げ出す。その手を吭の下に持って行って襟を直す。直すかと思うと、その手を下へ引くのだが、その引きようが面・・・ 森鴎外 「心中」
・・・ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行て来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行の体だ。 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・こう云いさして、大層意味ありげに詞を切って、外の事を話し出した。なんだかエルリングの事は、食卓なんぞで、笑談半分には話されないとでも思うらしく見えた。 食事が済んだ時、それまで公爵夫人ででもあるように、一座の首席を占めていたおばさんが、・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・足利時代からあったお城は御維新のあとでお取崩しになって、今じゃ塀や築地の破れを蔦桂が漸く着物を着せてる位ですけれど、お城に続いてる古い森が大層広いのを幸いその後鹿や兎を沢山にお放しになって遊猟場に変えておしまいなさり、また最寄の小高見へ別荘・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫