・・・それでね、ひとり息子の鶴田君の嫁は、何とかして先生に、僕の事だよ先生というのは、その先生に捜してもらいたいと、本当だよ、つまり僕はその全権を委任されているような次第なのだ。」 しかし、かのおじさんは、いかにも馬鹿々々しいというような顔つ・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・ 東京の方へも云うてやって、委任状もろうて、証書の書き換えをさせんならん。 なあ栄蔵はん、 この村も、金臭くなって仕舞うた。 はたして、もう一寸の間で、証書が口を利かなくなりかけて居た。 馬場と栄蔵は、その書き換えに・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・折を見て、連合国側にちょいと参加して、南洋の旧ドイツ領の委任統治地を稼いだし、青島に日本名で町名をつけることに成功したりした。人民の生命に責任を感じない彼等は近代戦争の惨劇というものを根柢から理解していなかった。三十年四十年と後れた平面的な・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫