・・・ さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女学校では、十文字女史の息子が経営している金属工場の防毒マスクの口金仕上げのために、昨今は自分の女学校の四年と五年の生徒の中の希望者を、放課後二時間ずつ働かせてい・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・彼女によき夫あれ。彼女によき子女あれ。而して彼女の天使の如き純潔何時までも地の栄たれ光たれ。直かれ。優しかれ。美しかれ。神よ、余の弱きを支へ給へ。余をして汝の卑きながら忠実なる僕たらしめ給へ。若輩は徒事に趨るもの多し。願くば余を其道より引き・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 私はその文章を読み、子女史の写真を眺めて、日日の記者は何たる皮肉家であろうと思った。昼間の私娼窟の人気ない軒合いを、立派な毛皮の長襟巻を膝の下まで重げに垂れ、さながら渡御の姿で両手を前に品よく重ねた子女史が、自分の正面に向けられたカメ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・その家族のことに考え及ぶと、彼等の妻、子女の為めに、婦人で社会事業に携る人々の為すべきことは少くないように思う。〔一九二三年十一月〕 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・然るに佐平もその子女も先ず死して、未亡人ぎんが残った。これが崖上の家の女主人であった。」わたくしは此に由って、父が今の家を是阿弥の未亡人の手から買い取ったと云うことを知った。 香以の他の友人二人の事は文淵堂主人が語った。石橋真国と柴田是・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫