・・・政府や官庁に任せて置けば、バラック一つ建ちようのない世の中で、自分たちだけの力でよくこれだけ建てたと思えるくらい、穴地を埋めてしまった。法善寺――食傷横丁といわれていた法善寺横丁の焼跡にも、二鶴やその他の昔なつかしい料理店が復活した。千日前・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ しかし、これはおかしい程売れず、結果、学校、官庁、団体への大量寄贈でお茶を濁すなど、うわべは体裁よかったが、思えば、醜態だったね。だいいち、褒めるより、けなす方が易しいのでんで、文章からして「真相をあばく」の方が、いくらか下品にしろ、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・大過無し。官庁に於ける評判もいいだろう。成功である。しかも、これは日本国中に、いま、放送せられているのだ。彼は自分の家族の顔を順々に見る。皆、誇りと満足に輝いている。 家庭の幸福。家庭の平和。 人生の最高の栄冠。 皮肉でも何でも・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 官庁内の一部に設けられた研究室の中で仕事をしている科学者は最も不自由な環境に置かれている。研究題目は上長官の命令で決まっており、その上に始めから日限つきでその日までにはどうでも目鼻をつけなければならないこともある。実におそらく最も不自・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・それからあのいつもの漆喰細工の大玄関をはいってそこにフロックコートに襟章でも付けた文部省の人々の顔に逢着するとまた一種の官庁気分といったようなものも呼び出される。尤もこんな事は美術とは何の関係もない事ではあるが、それでも感受性の鋭い型の観覧・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 数年前山火事に関する若干の調査をしたいと思い立って、目ぼしい山火事のあったときに自分の関係の某官衙から公文書でその山火事のあった府県の官庁に掛け合って、その山火事の延焼の過程をできるだけ詳しく知らせてくれるように頼んでやったことがあっ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ この社の主脳を形成するものは、あらゆる官庁学校商社のみならず、各政党や宗教家思想家のあらゆる団体の代表的人物を網羅したものでなければならない。そしてそれらの社員は単に寄書家という格で外様大名のような待遇を受けるのでなくて、その社の仕事・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・現代民衆の心理を無視した学者達が官庁の事務机の上で作り上げた教程のプログラムは理論上如何に完全に出来ていても、活きて動いている時代の人間の役に立つ教育には少しどうかと思われるのである。 庭の霧島つつじが今盛りで、軒の藤棚の藤も咲きか・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・されば其の際僕の身は猶海外に在ったから拙著の著作権を博文館に与えたという証書に記名捺印すべき筈もなく、又同書出版の際内務省に呈出すべき出版届書に署名した事もないわけである。官庁及出版商に対する其等の手続は思うに当時博文館内に在った木曜会会員・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・これは、工場や官庁に働く婦人、女教師などに大体同じ事情です。婦人と職業、結婚、家庭生活の問題は、いまの日本ですべての若いまじめな女性の問題です。社会のために行われている男女の勤労というものの価値が時間と金にだけ換算される時代がすぎて、もっと・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
出典:青空文庫