・・・「在るがまゝに現実を描き出すこと」「科学的精神」「客観描写」「現実曝露」等、ブルジョアジーがその生産方法の上に利用した科学の芸術的反映として、ブルジョア社会建設のために動員され、そして発展したものである。だから、そのなかに、日本ブルジョアジ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・俗物だけに、謂わば情熱の客観的把握が、はっきりしている。自身その気で精進すれば、あるいは一流作家になれるかも知れない。この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・自分の才能について、明確な客観的把握を得た。自分の知識を粗末にしすぎていたということにも気づいた。こんな男を、いつまでも、ごろごろさせて置いては、もったいない、と冗談でなく、思いはじめた。生れて、はじめて、自愛という言葉の真意を知った。エゴ・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・観者に関するあらゆる絶対性を打破する事によって現出された客観的実在は、ある意味で却って絶対なものになったと云ってもよい。 この仕事を仕遂げるために必要であった彼の徹底的な自信はあらゆる困難を凌駕させたように見える。これも一つのえらさであ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・科学的な客観的な言葉を用いたがる現代人は「空気がちがって来た」というのである。一と月後には下の平野におとずれるはずの初秋がもうここまで来ているのである。 沓掛駅の野天のプラットフォームに下りたった時の心持は、一駅前の軽井沢とは全く別であ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ここにおいて写生文家の描写は多くの場合において客観的である。大人は小児を理解する。しかし全然小児になりすます訳には行かぬ。小児の喜怒哀楽を写す場合には勢客観的でなければならぬ。ここに客観的と云うは我を写すにあらず彼を写すという態度を意味する・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・自己の所信を客観化して公衆にしか認めしむべき根拠を有せざる時においてすら、彼らは自由に天下を欺くの権利をあらかじめ占有するからである。 弊害はこればかりではない。既に文芸委員が政府の威力を背景に置いて、個人的ならざるべからざる文芸上の批・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・無論それを心理主義的というのではないが、知識の客観性といっても、認識主観の当為に立っているのである。真実在を論ずるものは、形而上学的として排斥せられてしまった。 然らば真実在とは如何なるものであろうか。それは先ずそれ自身に於てあるもの、・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 客観的には憎ったらしい程図々しく、しっかりとした足どりで、歩いたらしい。しかも一つ処を幾度も幾度もサロンデッキを逍遙する一等船客のように往復したらしい。 電燈がついた。そして稍々暗くなった。 一方が公園で、一方が南京町になって・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・どんな困難な境遇に立っても客観的な立場を守って、的確な判断と作戦とを誤らなかった彼ではあった。彼の心の中にどっしりと腰を下して、彼に明確な針路を示したものは、社会主義の理論と、信念とであった。「ああ、行きゃしないよ。坊やと一緒に行く・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
出典:青空文庫