・・・一家の害悪を止むるに非ずして却てこれを教唆するものなり。然かのみならず不品行にして狡猾なる奴輩は、己が獣行を勝手にせんとして流石に内君の不平を憚り、乃ち策を案じて頻りに其歓心を買い其機嫌を取らんとし、衣裳万端その望に任せて之を得せしめ、芝居・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 然りといえども世の中の事はすべて平均をもって成るものなれば、この平均を得るときは、何事にてもほとんど害悪なきものなり。古来、日本の教を道徳と技芸との両様に区別して、その釣合いかんを尋ぬれば、甲重くして乙軽しといわざるをえず。すなわち徳・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・「狐の如きは実に世の害悪だ。ただ一言もまことはなく卑怯で臆病でそれに非常に妬み深いのだ。うぬ、畜生の分際として。」 樺の木はやっと気をとり直して云いました。「もうあなたの方のお祭も近づきましたね。」 土神は少し顔色を和げまし・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 今日男女の青年たちの或るものが、形式ばった挨拶だけは上手で、一向に公徳心も、若者らしいやさしさもない心でいるのは、形式一点ばりであった軍事的教育の害悪です。 女の子だからと云って、女のくせに、と禁止ばかり多い育てかたをする時代・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・歴史の展望的な面へ科学的でない批判を集中して、資本主義の立場にたつ政治家がこんにち猛烈に反省をしなければ、日本の青年は政治的無関心に陥いるしかないといっている点など、こんにちの日本のブルジョア思想家の害悪をみないわけにはゆきません。こんにち・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・作者は計らずも、自身にとってその害悪の実感される環境において、人間性の浪費の悲劇を描いたのだった。「三郎爺」は一九一七年にかかれた。「古き小画」とは数年をへだてている。それにもかかわらず、一つの面白い共通点がある。作者はこの二つの作品の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・その金銭の害悪は、金銭の乏しい彼に金をつかわないで楽しく暮せる生活法の発見――イギリスの社会改良家の伝統的な幻想である素朴な自給自足生活へのあこがれ――をうけつがせた。ローレンスは、生活の現実におそいかかって来る果しない矛盾、恐怖、解決の見・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ ここにも、これまでの日本の封建性と近代資本社会の混合した恐ろしい害悪が現われている。 こういう文化機構であったからこそ、戦争中の日本人民は、あのように侵略思想で統一され、偽瞞されつくした。金を儲ける文化企業者は、人民の生血そのもの・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・まだに未解決な課題が再びとりあげられているとともに、アメリカを民主国家として知る世界のすべての人にとって、それが存在し得ていることを不審に思わせていたいくつかの民主的と見えない法規への廃止と独占資本の害悪に反対する主張が示されている。 ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ それらの子供たちが、一年東京に働いた後に健康を害する率の多いことは、既に一般から重大な関心をもって視られているし、工場や雇われ先での明け暮れに稚い若い心の糧の欠乏していることの害悪も、やはり人々を憂えさせている事実である。 昭和十・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
出典:青空文庫