はなはだお暑いことで、こう暑くては多人数お寄合いになって演説などお聴きになるのは定めしお苦しいだろうと思います。ことに承れば昨日も何か演説会があったそうで、そう同じ催しが続いてはいくらあたらない保証のあるものでも多少は流行過の気味で、・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・惜いかな今の日本の文芸家は、時間からいっても、金銭からいっても、また精神からいっても、同類保存の途を講ずる余裕さえ持ち得ぬほどに貧弱なる孤立者またはイゴイストの寄合である。自己の劃したる檻内に咆哮して、互に噛み合う術は心得ている。一歩でも檻・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・文士や画家や彫塑家の寄合所になっていた、小さい酒店が幾つもあったが、それがたいてい閉店してしまって、そこに出入していた人達は、今では交際社会の奢った座敷に出入している。新進文士でも二三の作が少し評判がいいと、すぐに住いや暮しを工面する。ちょ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 青年団の寄合で、村会議員の清助に会った時、彼はざっくばらんに自分の意見を話した。「どんなもんだべ、俺、まだ足腰の立つうち柳田村さやるのがいいと思うが、あっちにゃ何でも姪とかが一戸構えてる話でねえか。――万一の時、俺一人で世話はやき・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・端に弾圧されていた時代、日本共産党が非合法な政党としてひどい目にあわされていた時代、運動に入って困難な闘いを続けている若い男女の同志が世間態は人なみの家庭生活をしなければならないために、夫婦でない者が寄合って暮さなければならない、という場合・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・村の生活では若い者と年輩の者との順位というものはきびしく、村民の寄合いの席順から発言の権利まで同等ではない。都会の工場労働者は、大人になった熟練工よりも、青年工を使った方が賃銀が安いということから、いつも青年労働者を多く使う。または女を使う・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・「ほんとうに無口同志の寄合なんですよ。 私達はせわしい中を大さわぎして会っても野原なんかに出かけて行ってよっかかりっこをしながら空を見て居て二言三言話したっきりで別れちゃう事だってあるんです。 でも妙なもんでそれでも満足するんで・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・特に飾ピンなど。寄合町迄行って帰りに驟雨に会った。 第二日 多忙な永山氏を煩すことだから、大奮発で七時起床。短時間の滞在だから永山氏に大体観るべきところの教示を受けたいと、昨日電話して置いたのだ。紹介状には、私・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・それは、その村人自身にならなければ分らないけれ共、気候が悪いし、冬の恐ろしく長い事、諸国人の寄合って居る事、豊饒な畑地の少ない事、機械農業の行われない事、などは、他国者でも分ることである。 明治の初年、この村が始めて開墾されてから、変っ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 裁縫師の女房から本が借りられなくなると、ゴーリキイは若いのらくら男女の寄り合い場となっている街のパン屋で、副業に春画を売ったり猥褻な詩を書いてやったり、貸本をしたりしている店から、一冊一哥の損料で豆本を借り出した。そこの本はどの本も下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫