・・・かゝる一群の作家こそ、独り芸術の力の何たるかを解し、そして、童話こそは、詩的要素に富む、芸術でなければならぬと主張する輩です。 学校に於ける画一教育の長所と短所は、すでに世論によって明にされたるが如く、彼等の、社会的という言葉の意味・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・しかし山川の美に富む西欧諸国に入り込んだ基督教は、表面は一神でありながら内実はいつの間にか多神教に変化した。同時にユダヤ人の後裔にとっての一つの神なるエホバは自ずから姿を変えて、やがてドルになりマルクになった。その後裔の一人であったマルクス・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・の歌がわれわれを喜ばせたのはその歌の潜在的暗示に富むためであった。 潜在的であるゆえにまた俳諧の無心所着的な取り合わせ方は夢の現象における物象の取り合わせに類似する。夢の推移は顕在的には不可能であるが、心理分析によってこれを潜在意識の言・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・これはたぶんあとの母音は振動数の多い上音に富むため、またそういう上音はその波長の短いために吸収分散が多く結局全体としての反響の度が弱くなるからではないかと考えてみた事がある。ともかくもこの事と、鸚鵡石で鉦や鈴や調子の高い笛の音の反響・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ いつか海洋博物館での通俗講演会でペンクが青島の話をしたとき、かの地がいかに地の利に富むかということを力説し、ここを占有しているドイツは東洋の咽喉を扼しているようなものだという意味を婉曲に匂わせながら聴衆の中に交じっている日本留学生の自・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・「富む事は美徳である。富者はその美徳をあまり多く享有する事の罪を自覚するがゆえに、その贖罪のために種々の痴呆を敢行して安心を求めんとする。貧乏は悪徳である、貧者はその自覚の抑圧に苦しみ、富の美徳を獲得せんと焦慮するために働きあるいは盗み奪う・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・此点に於ては我輩は日本婦人の習慣をこそ貴ぶ者なれば、世は何ほど開明に進むも家は何ほど財産に富むも、糸針の一時は婦人の為めに必要、又高尚なる技芸として努ゆめゆめ怠る可らず。又茶酒など多く飲む可らずと言う。茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・近年、西洋において学芸の進歩はことに迅速にして、物理の発明に富むのみならず、その発明したるものを、人事の実際に施して実益を取るの工風、日に新たにして、およそ工場または農作等に用うる機関の類はむろん、日常の手業と名づくべき灌水・割烹・煎茶・点・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この学問に暗き者は、自から富むも、その富のよって来たるところを知らず、自から貧なるも、その貧をいたせし源由を知らざれば、富者は貧をいたしやすく、貧者は富を得がたし。ゆえに経済書を学ばざるものは、巨万の富豪も無産の貧漢に異ならず。第九・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・今日西洋において仏国盛なり英国富むというといえども、その富のよってきたるところは何処にあるや。竜動に巍々たる大廈石室なり、その市街に来往する肥馬軽車なり、公園の壮麗、寺院の宏大、これを作りてこれを維持するその費用の一部分は、遠く野蛮未開の国・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
出典:青空文庫