・・・しばらく船室に引込んでいて再び甲板へ出ると、意外にもひどい雨が右舷から面も向けられないように吹き付けている。寒暖二様の空気と海水の相戦うこの辺の海上では、天気の変化もこんなに急なものかと驚かれるのであった。 海から近づいて行く函館の山腹・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 小さな不連続線が東京へかかったと見えて、狂風が広小路を吹き通して紳士の帽を飛ばし淑女の裾を払う。寒暖二様の空気が関東平野の上に相戦うために起る気象現象である。気層の不平の結果である。 昔、不平があると穴を掘ってはこっそりその中へ吐・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・婦人の既に年頃に達したる者が、人に接して用談は扨置き、寒暖の挨拶さえ分明ならずして、低声グツ/\、人を困却せしむるは珍らしからず。殊に病気の時など医師に対して自から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くに・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫