・・・その姿は見れば見るほど、敵役の寸法に嵌っていた。脂ぎった赭ら顔は勿論、大島の羽織、認めになる指環、――ことごとく型を出でなかった。保吉はいよいよ中てられたから、この客の存在を忘れたさに、隣にいる露柴へ話しかけた。が、露柴はうんとか、ええとか・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・ただ肝腎の家をはじめ、テエブルや椅子の寸法も河童の身長に合わせてありますから、子どもの部屋に入れられたようにそれだけは不便に思いました。 僕はいつも日暮れがたになると、この部屋にチャックやバッグを迎え、河童の言葉を習いました。いや、彼ら・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・……廊下に台のものッて寸法にいかないし、遣手部屋というのがないんだもの、湯呑みの工面がつきやしません。……いえね、いよいよとなれば、私は借着の寸法だけれど、花柳の手拭の切立てのを持っていますから、ずッぷり平右衛門で、一時凌ぎと思いましたが、・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 正面を逆に、背後向きに見物を立たせる寸法、舞台、というのが、新筵二三枚。 前に青竹の埒を結廻して、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個……みまわしても視めても、雨上りの湿気た地へ、藁の散ばった他に何にも無い。 中へ何を入れたか、・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・さわがしく、性急だから、人さきに会に出掛けて、ひとつ蛇の目を取巻くのに、度かさなるに従って、自然とおなじ顔が集るが、星座のこの分野に当っては、すなわち夜這星が真先に出向いて、どこの会でも、大抵点燈頃が寸法であるのに、いつも暮まえ早くから大広・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・それで、お出迎えがないといった寸法でげしょう。」 と下から上へ投掛けに肩へ浴びせたのは、旦那に続いた件の幇間と頷かれる。白い呼吸もほッほッと手に取るばかり、寒い声だが、生ぬるいことを言う。「や、お澄――ここか、座敷は。」 扉を開・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・これ、値を上げる寸法で。「しゃッ、十貫十ウ、十貫二百、三百、三百ウ。」 親仁の面は朱を灌いで、その吻は蛸のごとく、魚の鰭は萌黄に光った。「力は入るね、尾を取って頭を下げ下げ、段々に糶るのは、底力は入るが、見ていて陰気だね。」・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・その堂がもう出来て、切組みも済ましたで、持込んで寸法をきっちり合わす段が、はい、ここはこの通り足場が悪いと、山門内まで運ぶについて、今日さ、この運び手間だよ。肩がわりの念入りで、丸太棒で担ぎ出しますに。――丸太棒めら、丸太棒を押立てて、ごろ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・「まあ、それで爺穢いのなら、お仙なぞもなるべく爺穢くさせたいものでございますね……あの、お仙やお前さっきの小袖を一走り届けておいでな、ついでに男物の方の寸法を聞いて来るように」「は、じゃ行って来ましょう……姉さん、ゆっくり談していら・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ しかし、その寝巻は寸法が長いので、娘は裾を引きずっていた。それが滑稽でもあり、そしてまた、ふと艶めかしくも見えた。「長いね」 小沢が言うと、娘は半泣きの顔になり、「ふん」 と、鼻の先で笑ったが、何思ったか急にペロリと舌・・・ 織田作之助 「夜光虫」
出典:青空文庫