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・・・私の心にもなき驕慢の擬態もまた、射手への便宜を思っての振舞いであろう。自棄の心からではない。私を葬り去ることは、すなわち、建設への一歩である。この私の誠実をさえ疑う者は、人間でない。私は、つねに、真実を語った。その結果、人々は、私を非常識と・・・
太宰治
「虚構の春」
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・・・……王の射手エーナール・タンバルスケルヴェはエリック伯をねらって矢を送ると、伯の頭上をかすめて舵柄にぐざと立つ。伯はかたわらのフィンを呼んで「あの帆柱のそばの背の高いやつを射よ」と命ずる。フィンの射た矢は、まさに放たんとするエーナールの弓の・・・
寺田寅彦
「春寒」