・・・ 例えば私たちが展覧会へ行って多くの画の前に立った時、我々の生活と没交渉なものゝ余りに多過ぎる事を痛感する。勿論、これらの作と雖も或る特殊階級の人々には必要なものかも知れぬが、然し此等の作品が民衆的であるべき目的を度外視して、或る特殊な・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・ 或日学校で生徒の製作物の展覧会が開かれた。その出品は重に習字、図画、女子は仕立物等で、生徒の父兄姉妹は朝からぞろぞろと押かける。取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこ・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ 水車場を過ぎて間もなく橋あり、長さよりも幅のかた広く、欄の高さは腰かくるにも足らず、これを渡りてまた林の間を行けばたちまち町の中ほどに出ず、こは都にて開かるる洋画展覧会などの出品の中にてよく見受くる田舎町の一つなれば、茅屋と瓦屋と打ち・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・「今ある展覧会も、できるだけ見て行くがいいぜ。」「そうだよ。」 と、また次郎が答えた。 五月にはいって、次郎は半分引っ越しのような騒ぎを始めた。何かごとごと言わせて戸棚を片づける音、画架や額縁を荷造りする音、二階の部屋を歩き・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・今日までの代の変遷を見せる一種の展覧会、とでも言ったような具合に、あるいは人間の無益な努力、徒に流した涙、滅びて行く名――そういうものが雑然陳列してあるかのように見えた。諸方の店頭には立て素見している人々もある。こういう向の雑書を猟ることは・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・この次郎は、上京したついでに、今しばらく私たちと一緒にいて、春の展覧会を訪ねたり、旧い友だちを見に行ったりして、田舎の方で新鮮にして来た自分を都会の濃い刺激に試みようとしていた。 まだ私は金を分けることなぞを何も子供らに話してない。匂わ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・「そろそろ展覧会の季節になりましたが、何か、ごらんになりましたか。」「まだどこの展覧会も見ていませんが、このごろ、画をたのしんでかいている人が実に少い。すこしも、よろこびが無い。生命力が貧弱です。 ばかに、威張ったような事ばかり・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・あなたが、瀬戸内海の故郷から、親にも無断で東京へ飛び出して来て、御両親は勿論、親戚の人ことごとくが、あなたに愛想づかしをしている事、お酒を飲む事、展覧会に、いちども出品していない事、左翼らしいという事、美術学校を卒業しているかどうか怪しいと・・・ 太宰治 「きりぎりす」
上野の近くに人を尋ねたついでに、帝国美術院の展覧会を見に行った。久し振りの好い秋日和で、澄み切った日光の中に桜の葉が散っていた。 会場の前の道路の真中に大きな天幕張りが出来かかっている。何かの式場になるらしい。柱などを・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ 人形そのものの形態は、すでにたびたび実物を展覧会などで見たりあるいは写真で見たりして一通りは知っていたのであるが、人形芝居の舞台装置のことについては全く何事も知らなかったので、まず何よりもその点が自分の好奇的な注意をひいた。まず鴨居か・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
出典:青空文庫