・・・そうしたら、きっと復活する。希望、奮闘、勉励、必ずそこに生命を発見する。この濁った血が新しくなれると思う。けれどこの男は実際それによって、新しい勇気を恢復することができるかどうかはもちろん疑問だ。 外濠の電車が来たのでかれは乗った。敏捷・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・幸におれは一工夫して、これならばと一縷の希望を繋いだ。夜、ホテルでそっと襟を出して、例の商標を剥がした。戸を締め切って窓掛を卸して、まるで贋金を作るという風でこの為事をしたのである。 翌朝国会議事堂へ行った。そこの様子は少しおれを失望さ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・その上に私のこの希望を正当と思わせるもう一つの見地がある。手工は勿論高等教育を受けるための下地にはならないでも、人間として立つべき地盤を拡げ堅めるために役に立つ。普通学校で第一に仕立てるべきものは未来の官吏、学者、教員、著述家でなくて「人」・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・学校を出てから、東京へ出て、時代の新しい空気に触れることを希望していながら、固定的な義姉の愛に囚われて、今のような家庭の主婦となったことについては、彼女自身ははっきり意識していないにしても、私の感じえたところから言えば、多少枉屈的な運命の悲・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
哀愁の詩人ミュッセが小曲の中に、青春の希望元気と共に銷磨し尽した時この憂悶を慰撫するもの音楽と美姫との外はない。曾てわかき日に一たび聴いたことのある幽婉なる歌曲に重ねて耳を傾ける時ほどうれしいものはない、と云うような意を述・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・そのつもりで読まれん事を希望する。 実をいうとマロリーの写したランスロットは或る点において車夫の如く、ギニヴィアは車夫の情婦のような感じがある。この一点だけでも書き直す必要は充分あると思う。テニソンの『アイジルス』は優麗都雅の点において・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・僕はその希望を夢に見て楽しんでいる。 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・で、遂々ここへこんな風にしてもう生きる希望さえも捨てて、死を待ってるんだろう。 三 私は彼女が未だ口が利けるだろうか、どうだろうかが知りたくなった。恥しい話だが、私は、「お前さんは未だ生きていたいかい」と聞いて見る慾望・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・万一を希望していた通り、その日の夜になッたら平田が来て、故郷へ帰らなくともよいようになッたと、嬉しいことばかりを言う。それを聞く嬉しさ、身も浮くばかりに思う傍から、何奴かがそれを打ち消す、平田はいよいよ出発したがと、信切な西宮がいつか自分と・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・然りといえども今の文明の有様にては、充分を希望するはとても六ヶしきことなれば、必ずしも充分にあらずとも、なるべきだけ充分に近づくことの出来るよう、精々注意せざるべからず。余輩が毎に勧むる所の教育とは、即ちこの有様に近づき得るの力を強くするの・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
出典:青空文庫