・・・当時父は日清戦役のために予備役で召集され、K留守師団に職を奉じながら麹町区平河町のM旅館に泊まっていたのである。 Iの家の二階や階下の便所の窓からは、幅三尺の路地を隔てた竹葉の料理場でうなぎを焼く団扇の羽ばたきが見え、音が聞こえ、におい・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・○○師団のところへ掛合行きも行った。五度も行って縋った。○○師団長も終に怒った。軍隊の命令は、総て、天皇陛下のお言渡しと心得ろと然う言って叱って返した。秋山さんも、何うも為方がねえ。 尤も奥さんの綾子さんの方でも、随分気はつけていた。遺・・・ 徳田秋声 「躯」
上 仙台の師団に居らしッた西田若子さんの御兄いさんが、今度戦地へ行らッしゃるので、新宿の停車場を御通過りなさるから、私も若子さんと御同伴に御見送に行って見ました。 寒い寒い朝、耳朶が千断れそうで、靴の裏が路上に凍着くのでした・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・エゴーの分析 リアリズム 古き十八世紀風なもの 社会的場面の描写 特にサロン スタンダールの帝政時代観 p.28 リュシアンの入った第三師団管轄区の査閲を拝命した伯爵N中将について。p.29 N伯・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・つ協定や条約をただの紙きれとしてしまおうとしている者たち、軍備の廃止のために協力するどころか、すでにおそるべき結果を生み出している軍事同盟政策に熱中して、西ドイツに、もとのヒットラーの突撃隊員をふくむ師団をつくった、極東の平和を名目として日・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
・・・ 石田は司令部から引掛に、師団長はじめ上官の家に名刺を出す。その頃は都督がおられたので、それへも名刺を出す。中には面会せられる方もある。内へ帰ってみると、部下のものが名刺を置きに来るので、いつでも二三枚ずつはある。商人が手土産なんぞを置・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・皇室警衛のために東京には近衛師団がある。巡査や憲兵も沢山いる。警手もいる。我々の出る幕ではない。――しかし父が自ら警衛したいという心持ちにも当然の理由を認めざるを得なかった。父の皇室に対する情熱は、乃木大将のそれのように、個人的なものである・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫