・・・面積一万五千平方マイルのデンマークにとりましては三千平方マイルの曠野は過大の廃物であります。これを化して良田沃野となして、外に失いしところのものを内にありて償わんとするのがそれがダルガスの夢であったのであります。しかしてこの夢を実現するにあ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・江の島の橋のたもとに、新宿へ三十分、渋谷へ三十八分と、一字一字二尺平方くらいの大きさで書かれて居る私設電車の絵看板、ちらと見て、さっさと橋をわたりはじめた。からころと駒下駄の音が私を追いかけ、私のすぐ背後まで来てから、ゆっくりあるいて、あた・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・鶴を読め、鶴を読めと激しい語句をいっぱい刷り込んだ五寸平方ほどのビラを、糊のたっぷりはいったバケツと一緒に両手で抱え、わかい天才は街の隅々まで駈けずり廻った。 そんな訳ゆえ、彼はその翌日から町中のひとたちと知合いになってしまったのに何の・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・ そんな事はどうでもよいが、私の眼についたのは、この灰色の四十平方寸ばかりの面積の上に不規則に散在しているさまざまの斑点であった。 先ず一番に気の付くのは赤や青や紫や美しい色彩を帯びた斑点である。大きいのでせいぜい二、三分四方、小さ・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・面積一平方ミリに一語くらいの勘定になるようである。日本でも米粒の表面に和歌を書く人があるが、これに匹敵する程度の細字と思われる。聞くところによると、米粒へ文字を書くには、米粒を手のひらへのせて、毎日暇さえあればしみじみとながめている、すると・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・しかれども毎平方里における雨量の異同を予言するがごときは望み難かるべし。 地震の場合においては、いまだ気象要素に相当すべき条件さえ明白ならず。従って解析的の方法を取るべき材料いまだ具備せず。これらが一通り具備したる暁においても、現象の偶・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 病気にさわる事を恐れて初めの日は三尺平方ぐらいにしてやめた。昼過ぎに行って見ると、刈られた葉はすっかりかわき上がって、青白い干し草になって散らばっていた。日向にさらされたままの鋏の刃はさわって見ると暑いほどにほてっていた。 学・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ある時代のロシアの魂、その魂は、ロシアばかりにしかなくて、ロシア生活の根で二千百三十五万二千平方粁の上に発生する感情と智慧はそれから翔び去れないところの魂のある姿なのだ。そうでないとしたら、社会主義者で芸術家である秋田雨雀さんが、大劇場の桜・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・、「ウクライナとシベリア間数千マイル平方の土地を、ほのおに包まなくてはならない。」と提言しているのである。この委員会は、細菌兵器も禁止すべきではないとしている。味方の手には、あらゆる殺戮の武器を与えようとするこの種の平和運動者を指弾するらい・・・ 宮本百合子 「平和の願いは厳粛である」
出典:青空文庫