・・・何等の所望と尋ぬれば、至急の急は則ち性慾を恣にするの一事にして、其方法に陰あり陽あり、幽微なるあり顕明なるあり、所謂浮気者は人目も憚らずして遊廓に狂い芸妓に戯れ、醜体百出人面獣行、曾て愧るを知らずして平気なる者あり。是れより以上醜行の稍や念・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば、此世は神様が作ったのだとか、やれ何だとか、平気で「断言」して憚らない。その態度が私の癪に触る。……よくも考えないで生意気が云えたもんだ。儚い自分、はかない制限された頭脳で、よくも己惚れて、あんな断言が出来たものだ、と斯う思うと、賤・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・その時虚心平気に考えて見ると、始めて日本画の短所と西洋画の長所とを知る事が出来た。とうとう為山君や不折君に降参した。その後は西洋画を排斥する人に逢うと癇癪に障るので大に議論を始める。終には昔為山君から教えられた通り、日本画の横顔と西洋画の横・・・ 正岡子規 「画」
・・・ ところが画かきは平気で「いいえ、あとでこのけずり屑で酢をつくりますからな。」と返事したものですからさすがの大王も、すこし工合が悪そうに横を向き、柏の木もみな興をさまし、月のあかりもなんだか白っぽくなりました。 ところが画か・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・人間が愛するものを持つことが出来ず、又愛するものが死んでも平気でいられるように出来ていたら、人生はうるおいのないものになるだろう。純粋にそれを味わい得ることは稀だ」その純粋に経験された場合として、愛らしい夏子と村岡と夏子の死が扱われているわ・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・それがどんな脚本かと云うと、censure の可笑しい程厳しいウィインやベルリンで、書籍としての発行を許しているばかりではない、舞台での興行を平気でさせている、頗る甘い脚本であった。 しかしそれは三面記者の書いた事である。木村は新聞社の・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・それをあなた平気でわたくしにお聞きになるのですか。 女。ではどんなにして伺えばよろしいのでしょう。 男。だって驚くじゃありませんか。あの時わたくしには始めて分かったのです。まあ、あなたがうそつきだとは申しますまい。体好く申せばわたく・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・特に相手が、嘘をつくことの平気な、媚を以て男に対しようとするような女である場合に、その事実は明らかであった。これに反して自分が最も我の少ない虚心な態度で交わっている人には、本当の自分が最も明らかに活らき掛けていた。 自分はすべての人と妥・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫